シビル・アクション

1999/12/01 UIP試写室
実話をもとにしたジョン・トラボルタ主演の法廷映画。
民事専門弁護士が大企業との裁判に挑む。by K. Hattori


 ジョン・トラボルタが民事訴訟専門のやり手弁護士を演じた法廷もの。法廷ものはアメリカでは人気のあるジャンルですが、日本ではほとんど成功例がない。訴訟社会アメリカと、日本の文化の違いでしょうか。刑事事件は日米共に裁判が開かれるわけだから、裁判件数の差は民事事件の数で決まる。アメリカではごく普通の人が隣人を訴え、地元の商店を訴え、企業を訴える。映画の中に登場する民事の弁護士は、しばしば金勘定と法廷戦術だけに長けた冷血漢として描かれます。この映画の主人公ジャン・シュリクトマンも、そんな冷血弁護士のひとりです。依頼人に心から同情する素振りを見せながら、内心では法廷という劇場でのパフォーマンス効果を計算しているしたたかな男。庶民の味方を演じながら、勝ち目のない裁判には決して手を出そうとしない計算高い男。そんな男が「これは金になる!」と直感したのが、小さな田舎町で起きた公害事件。相手は大企業だから、上手くすれば莫大な賠償金をむしり取ることができる。病気で子供を亡くした原告たちの告白は、涙なしには聞けないものだ。裁判になれば陪審員は全員が見方になる!

 常に計算高く自分の「勝ち」にこだわっていた男が、いつしか被害者への同情と、弁護士としてのプライドにこだわり始める。それが民事裁判の弁護士にとって、いかに致命的なことなのかわかっているはずなのに……。裁判準備の調査に大金を使い、事務所の金はあっという間に使い果たされる。大企業相手の裁判は、シュリクトマンの小さな弁護士事務所にとって一世一代のギャンブルなのだ。大金がか賭けられた鉄火場で、冷静さを失っては元も子もない。だが主人公は必要以上に熱くなり、一世一代の大博打にのめり込んで行ってしまう。

 主人公が持つ純情さとある種のいかがわしさを、トラボルタが見事に表現しています。主人公と対照的なのが、常にポーカーフェイスの企業側弁護士ファッチャー。演じているロバート・デュバルが、これがまた上手い。「損して得取れ」「負けるが勝ち」式の法廷戦術を、裏の裏まで知り尽くした老獪な男です。判事役のジョン・リスゴーもいい。トラボルタがいくらがんばっても、デュバルやリスゴーの前では青二才のヒヨッコ弁護士に見えてしまう。映画の導入部ではどっしり構えて頼もしく見えたトラボルタが、裁判所にはいると突然頼りなく見えてしまうのです。この映画は、そんな若い弁護士が苦闘の末に大きく成長して行く物語でもあります。

 監督・脚本のスティーブン・ザイリアンは『ボビー・フィッシャーを探して』の監督ですが、僕はこの映画を未見。脚本家としては『シンドラーのリスト』や『レナードの朝』などの実録ものを書いている。今回の『シビル・アクション』も実話がベースです。映画の中では状況説明のためのフラッシュバックが効果的に使われていますが、それが独特のユーモアになっている。大学で講義するファッチャーと裁判シーンを交互に見せるくだりなど、見ていて「すごい!」と唸ってしまいました。

(原題:A CIVIL ACTION)


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