フォーエバー・フィーバー

1999/11/11 徳間ホール
シンガポールの'70年代ディスコ・ブームを背景にした青春映画。
定番の素材も料理次第でこんなに面白くなる。by K. Hattori


 『サタデー・ナイト・フィーバー』が公開されて、世界中にディスコ・ブームが起きた1977年。シンガポールでスーパーの店員をしているホックのアイドルは、ジョン・トラボルタではなくブルース・リーだった。ある日、仲間と出かけた映画館で見かけたダンス映画の看板。「ダンスなんて女の子がするもんだぜ!」「『フィーバー(熱)』って何だ? 難病ものか?」などと不平タラタラのホックだったが、映画の中で踊りまくるトラボルタの姿に感激し、幼なじみのメイを誘って自分もダンスを習うことにする。目指すはダンスコンテストの賞金5千ドル。それだけあれば憧れのバイクが買える!

 話の筋立てには、まったく新鮮味がない。うだつの上がらないスーパー店員の青年が、ダンスコンテストを目指して特訓し始めれば、最後は優勝するに決まっている。幼なじみの女の子を最初は妹のように感じていた主人公は、途中から彼女の愛に気づいて最後は互いに愛し合うようになる。ダンス教室には金持ちで性格の悪い、だけどダンスはそれなりに上手いライバルがいて、主人公の上達ぶりを快く思っていない。そのライバルの恋人は美人で性格もよく、主人公のマドンナ的存在になっている。主人公にはデキのいい弟がいて、両親はその弟をかわいがって主人公を疎んでいる。最後のダンスコンテストでは、ライバルの卑劣な妨害工作にもめげず、主人公はフロアで華々しい活躍を見せる……。すべてが出来合いのストーリー展開。しかし、それでも面白い。こんなに面白い映画、楽しい映画、笑える映画、泣ける映画とは、年に何本も出会えないと思う。

 出来合いのストーリー展開の長所は、過去に何度も何度も繰り返し使われているため、物語のポイントがつかみやすく、どう料理しても壊れない強靱さを持っていることだ。それを手垢の付いたものにしてしまうか、新鮮で感動的な物語に仕立てるかは作る側の腕次第。こうした映画は、料理で言えばカレーとかラーメンとかチャーハンといった定番メニューと同じ。手を抜いてもそれなりのものはできるけど、素材を吟味して手を抜かず丁寧な仕事をすれば人を感動させる料理になるのです。この映画は定番のストーリーを丁寧に細工して、見事に傑作青春映画に仕上げてしまった好例。小さなエピソードのひとつひとつにそれぞれ意味があり、すべての歯車がかみ合って大きなドラマを作っている。例えば、映画の中に初めてメイが登場するシーンを見よ! 彼女のほんのわずかな表情や行動だけで、彼女がホックに友情以上の好意を持っていることがすぐにわかってしまうし、そんな彼女の好意に気づかないホックの鈍感さもきちんと描写されている。こうした場面をおざなりに演出してしまう映画が、じつは多いのです。

 『サタデー・ナイト・フィーバー』のそっくり映画、トラボルタのそっくりさん、ビージーズの巧妙なカバーなどを使って、『サタデー・ナイト・フィーバー』を直接引用する以上の効果を生みだしているのも上手い!

(原題:FOREVER FEVER)


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