オネーギン
(劇場タイトル:オネーギンの恋文)

1999/10/31 オーチャードホール
(第12回東京国際映画祭)
プーシキンの代表作をレイフ・ファインズ主演で映画化。
最後のクライマックスに演出ミスがある。by K. Hattori


 ロシアの文豪プーシキンの詩小説を、レイフ・ファインズの製作総指揮・主演で映画化した文芸ロマンス。共演はリブ・タイラー。監督はレイフ・ファインズの妹マーサ・ファインズ。音楽を担当したのは弟のマグナス・ファインズ。これで弟のジョセフ・ファインズも出演すれば、ファミリー総出演だったのに……。ファインズ家は父が写真家、母が小説家・画家という芸術家ファミリーらしいのですが、一家で映画が作れるというのはすごいなぁ。なお、本作はマーサ・ファインズの劇場映画監督デビュー作。兄の後押しがあったとはいえ、デビュー作でいきなり海外ロケまである大作を撮ってしまうのだからたいしたもの。しかも初監督作とは思えない堂々たる演出ぶりで、観ていてびっくりしてしまいました。

 時代は19世紀初頭の帝政ロシア、ペテルブルグ。伯父の遺産を相続した主人公オネーギンは、相続した地所で青年地主ウラジーミルと知り合い友人になる。彼の婚約者はラーリン家の次女オリガ。オネーギンは彼女の姉タチヤーナの美しさと聡明さに心を惹かれ、タチヤーナもオネーギンに恋心を持つ。タチヤーナはオネーギンに熱烈なラブレターを送るのだが、彼はこの愛を拒絶してしまう。やがて些細なことから、オネーギンはウラジーミルと決闘することになり、自らの手で親友を射殺してしまう。傷心のオネーギンは地所を去る。それから6年後、ペテルブルグの社交界でオネーギンは美しく変身したタチヤーナに再会する。彼女はオネーギンの従兄弟であるニコライエフ公爵の妻になっていた……。

 ペテルブルグでの大がかりなロケと、パインウッドに作った室内セット、豪華な衣裳、一流の役者と端正な演出。なかなか見応えのあるドラマに仕上がっていますが、僕が気になったのは2ヵ所。ひとつはオネーギンが姿を消してから6年後に戻ってくるまでの時間経過がわかりにくく、ふたりが再会したところで少し戸惑ってしまうこと。ここで「それから6年」などと字幕を入れろとは言いませんが、もう少し端的な描き方の方がよかったと思う。このへんは新人監督ゆえの回りくどさかも知れません。映画の冒頭にあるイントロ部分も、少し長く感じるし……。感覚的なものもあるかも知れませんが、僕には少し冗長に感じられます。

 2番目の問題点はもっと重要。映画のクライマックスでオネーギンがタチヤーナを訪ねてくる場面に、僕は決定的な演出の齟齬を感じてしまった。ここはタチヤーナがオネーギンへの愛を告白するか否かという重大なサスペンスが繰り広げられるのだが、同時にここで、同じ屋敷の2階に寝ている公爵が目を覚ますかもしれないという別のサスペンスが生まれてしまう。ふたつのサスペンスがうまく噛み合えば、ここはハラハラドキドキする映画最大の見せ場になっただろう。ところがこの映画の中では、ふたつのサスペンスがバラバラに存在するため、一方が気になるともう一方がお留守になってしまう。その結果、映画の印象が非常に弱くなったのは残念だ。

(原題:Onegin)


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