逢いたくてヴェニス

1999/10/27 KSS試写室
不倫旅行に出かけた夫を追うために、浮気相手の亭主を誘拐!
ドイツで製作された傑作ラブ・コメディ。by K. Hattori


 愛人と不倫旅行に出かけた亭主を捕まえるため、子連れのヒロインがヴェニスに向かう、ドイツ映画版『フレンチ・キス』。主人公エバは夫である売れない画家ルイスとふたりの子供を養うために、レストランでウェイトレスの仕事をしている。ところがある日、嫌味な客の態度に腹を立てた彼女は客めがけて料理をぶちまけ、あっという間に店をクビになってしまう。こうなったら、いよいよ夫に働いてもらうしかない。ところが夫は画商に会うと言い訳を付けて、愛人とヴェニスに不倫旅行。偶然それを見つけたエバは、相手が有名な銀行家シャルロットだと知ると、彼女の夫である弁護士のニック(なんとレストランの嫌味な客!)にオモチャの銃を突きつけて誘拐。自分の子供と一緒に彼を車に押し込んで、一路ヴェニスへと向かうのだった……。

 この手のロードムービーは、一緒に旅をする者同士がまったく異なる個性の持ち主である方が面白い。金持ちの令嬢と新聞記者が旅をする『或る夜の出来事』、父親と幼い息子が旅をする『パリ・テキサス』、野心家の弟が自閉症の兄と旅をする『レインマン』、ヤクザ崩れの男と少年が旅をする『菊次郎の夏』、世間知らずの女が札付きの泥棒と旅をする『フレンチ・キス』などなど。実際に旅をするなら、旅の友は気の合う仲間いい。でも映画では、旅の友をできるだけ極端な対比の中に置きたがる。一番いいのは両者を敵対関係に置くことだ。

 この『逢いたくてヴェニス』は、そうした意味で面白いロードムービーの条件をすべて兼ね備えている。コンビの一方エバは、貧乏で子持ちでしかも失業したばかりのウェイトレス。もう一方のニックは、大金持ちで子供嫌いで、金のためなら何でもやる腕利きの弁護士。ふたりは生い立ちも違う、考え方も違う、そもそも住む世界が違うのです。最初のレストランの場面で、エバは給仕をする側であり、ニックは運ばれてきた食事を食べる側だった。これがふたりの立場の違いです。本来なら対等に口を利くことなんて絶対にない男と女が、何の因果か一緒に旅をしなければならなくなってしまう不思議さ。ふたりは旅の中で互いの隠れた素顔を発見し、自分自身の中にあるもうひとつの自分に気づき始める。

 こうした映画では、最初に主人公がふたり揃った段階で「はいはい。このふたりが最後には好き合って結ばれるわけですね。もう結末はわかりますけど、折角だから一応お話だけうかがっときましょう」と思わせるものが多い。この映画もそうした予定調和に向かってまっしぐらに進んで行くのですが、主人公たちの人物設定がじつに巧みなため「このふたりを結びつけるのは無理だ!」と思い込まされてしまう。最後の最後まで、2組の夫婦がよりを戻す可能性を残しておくところが上手い。

 話の筋立ては古典的なラブ・コメディだけど、ヒロインに子供がいるというのが現代風。エバを演じたアグライア・シスコヴィッチもチャーミングです。こんな映画なら、ハリウッドでリメイクするかもね。

(原題:4 MANNER, 2 FRAUEN - 4 PROBLEME)


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