シュリ

1999/10/20 シネカノン試写室
北朝鮮スパイと韓国情報部の戦いを描いたアクション映画。
アクションに血が騒ぎ、最後は涙する力作。by K. Hattori


 『八月のクリスマス』で一見するとホノボノ系の主人公を演じていたハン・ソッキュ主演の、韓国製サスペンス・アクション映画。韓国にしては珍しく、来年早々に日本全国で公開される娯楽作だ。ハリウッド映画にも負けないスケールとアクションで、銃撃戦もカーチェイスもバリバリなので、本当は大画面で観たいんだけど、単館系(注)だからどこもスクリーンは小さいかな……。音響もドルビー・デジタルなので、劇場を選んで観てほしい映画です。(今回の試写が行われたシネカノンの試写室は、デジタル対応じゃなかったみたいですけど。)

 第二次大戦後、南北分断国家となった朝鮮半島の悲劇を背景に、北朝鮮から韓国へと潜入したテロリスト・グループと、韓国の情報部員の戦いを描いたアクション映画。最近はハリウッド映画でも北朝鮮を国際テロの悪役にするケースが見られますが、韓国は北朝鮮に直接対峙した当事者だから、描写にも熱が入る。基本的には娯楽映画なので「そんなアホな!」という部分もありますが、それをしのぐドラマがきちんと作られています。ハリウッドのアクション映画に慣れた観客が観ても、絶対に見劣りしないハイレベルなアクションとドラマで、最初から最後まで観客を釘付け間違いなしです。

 圧倒的な資本力で世界制覇を狙うハリウッド作品を前に、「あれはウチじゃ無理だ」と諦めていたのが、日本も含む非ハリウッド映画界の最近までの傾向だった。「お金をかけなくてもいい映画は作れる」「アクションや特撮はハリウッドに任せておけばいい」「最後は人間ドラマで勝負だ」と、ハリウッドに背を向けて映画を作ってきた結果、どの国の映画市場もハリウッド作品に席巻されてしまったという悲しい現実がある。しかし最近はどの国の映画界でも若い才能が登場し、今までのように非ハリウッド的な作品作りをするのではなく、あえてハリウッド的な方法論で映画を作ろうとし始めている。『ドーベルマン』『TAXi』などのフランス映画や、『バンディッツ』『ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア』などのドイツ映画、日本でも『踊る大捜査線 THE MOVIE』は邦画よりハリウッド映画を参考にしているのが明らかです。この韓国映画『シュリ』も、まさにそうした思考法で作られている。

 2時間4分というちょっと長めの映画ですが、オープニングに登場する北朝鮮のテロリスト養成風景から、一気に物語の中に引き込まれていく。あとはアクションあり、男同士の熱い友情あり、男女の悲恋物語ありと、エピソードはてんこ盛り。物語のキーになるのが“液体爆弾”というのはちょっとトホホですが、そんなこと言ったら『フェイス/オフ』の顔入れ替え手術なんてさらにトホホだもんね。問題はそうした映画の嘘の上に、どれだけのドラマを厚く熱く盛り上げるかってこと。下手なところもあるけど、この太々しいまでの熱っぽさは並じゃない。韓国映画だけでなく、昨今のアクション映画を語る上でも絶対に見逃せない映画です。

(英題:Swiri)

注:『シュリ』は当初シネ・ラ・セットなど全国のミニシアターで新春第2弾作品として公開される予定だったが、年末になって『ワイルド・ワイルド・ウェスト』と『ラブ・オブ・ザ・ゲーム』の中継ぎ作品として1週間だけ松竹東急系劇場で上映されることになった。どのような経緯があったのかは不明だが、この映画が大きなスクリーンで観られるのは嬉しい!(2000/01/17記)


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