ANNA+OTTO
アナとオットー

1999/10/15 映画美学校試写室
8歳で互いを運命の人だと確信したアナとオットーの物語。
非常にクールな印象を与えるスペイン映画。by K. Hattori


 スペインというと闘牛とカルメンの国という程度の印象しかなかった僕にとって、『オープン・ユア・アイズ』は衝撃的だった。この映画にも出演していたナイワ・ニムリとフェレ・マルティネスが出演しているのが、この『ANNA+OTTO』だ。8歳で知り合い、互いの父母が結婚したことで義理の兄妹となったアナとオットー。ふたりの恋とその結末を、互いのモノローグを主体にした一人称で交互に描いて行く異色のラブストーリー。ひとつの物語を複数の視点で描く映画は多数存在するが、この映画はひとつの事実の隠された側面を暴露するわけではなく、ひとつの事実を受け入れる「ふたつの心」のあり方を丁寧に描いて行く。映画の冒頭とラストが輪のようにつながる構成にも目新しさはないが、この映画ではそれによってラストシーンの印象を強調され、映画の後に残る余韻を生み出している。

 監督のフリオ・メデムはこの作品が4作目。デビュー作の『Vacas』は'92年の東京国際映画祭ヤングシネマコンペティションに出品され、東京ゴールド賞・都知事賞を受賞したという。(僕は未見。)『ANA+OTTO』はスペインで興行成績歴代3位という好記録を打ち立て、今年の春からは全米公開されて好評だったとか。

 ひとつひとつのエピソードが緻密に構成されている映画で、全体がひとつの精密機械のように動いています。ひとつひとつの台詞、ひとつひとつの動作、すべてに意味があって、余計なものはひとつもない。それがある種の窮屈さに感じられることもありますが、この適度な拘束感が、運命の手に縛られた恋人同士の関係を強く印象づけることになります。アナやオットーが暮らしている世界の中では、偶然起こることなどひとつもない。すべては複雑に絡み合いながら、予定された役割を担っている。アナとオットーが巡り会ったのも運命だし、ふたりが恋に落ちるのも、結ばれるのも、やがて別れが訪れるのも、再会するのも、すべては当人たちの意志とはお構いなしの場所で決定されていることなのです。これは映画の序盤で、オットーの台詞として説明もされている。彼がもしサッカーボールを追いかけなければ、アナとオットーは知り合うことなどなかった。それが運命です。

 いささか寓話的なこの物語の最後は白夜の北極圏フィンランドで終わるが、映画の中ではフィンランドが「Fin-Landia」と表記される。つまり、この世界の終わりという意味。離ればなれになったアナとオットーの人生は、失ってしまった自分のパートナーを捜す旅であり、その旅はフィンランドで終止符を打つのだ。ハッピーエンドが最初から期待されていない物語ではあるが、このエンディングは胸にこたえた。小泉八雲の「赤い婚礼」を読んだのと同じような衝撃がある。

 『オープン・ユア・アイズ』に続いて、スペイン映画あなどりがたしという印象を受けた映画。この監督の過去の作品も、続けて公開してくれないだろうか……。この映画がヒットすれば、それもあり得るかもしれない。

(原題:Los amantes del Circulo Polar)


ホームページ
ホームページへ