美しき小さな浜辺

1999/09/30 東宝東和一番町試写室
小さな村のホテルにやってきた青年と、彼を追う中年男の正体は?
ジェラール・フィリップ主演の社会派ミステリー。by K. Hattori


 特別な観光地があるわけでもなく、特別に風光明媚なわけでもない海辺の小さな村。村人たちは薄暗い海岸を「美しき小さな浜辺」と呼ぶが、そこは保養地にしかなりそうもない、あえて言えば「何もないことが取り柄」の土地なのだ。ある雨の晩、村にある小さなホテルに、ひとりの青年がやってくる。神経の病で療養に来た学生だと名乗った青年は、青白い顔のまま部屋に上がり込む。やがて彼を追って、目つきの悪い中年の男も同じホテルに宿を取る。やたらと新聞記事を気にする青年は、かつて村を訪れたこともあるという有名歌手の話題に神経をとがらせる。歌手は何者かに殺され、犯人は逃走中だ。青年の正体は何者か? 彼を追う男の目的は何か?

 ジェラール・フィリップ主演のミステリー映画で、製作されたのは1948年。映画の冒頭に「この映画は孤児院出身者を差別する目的で作られたものではない」という但し書きが出るため、ホテルを訪れた青年の正体は冒頭の1シーンですぐにわかり、彼がホテルを訪れた目的も10分でわかってしまうという欠点がある。こうした但し書きは今なら不要なのかもしれないが、昔は孤児に対する偏見や差別が根強くあったため、どんなに映画の中でその問題をデリケートに描いたとしても、観客に誤解を与えかねないと判断したのだろう。この時代に孤児たちがどのような境遇だったのかは、この映画の中にもたっぷりと描かれている。

 この当時は戦争の影響もあって、世界中で孤児が生まれていた。それはフランスだけにとどまらない。この映画は今回が日本での劇場初公開。製作当時に日本に輸入できなかったのは、当時の日本がアメリカに占領されていて、GHQが映画興行についても強い統制を行っていたからです。この映画は「孤児への偏見」という社会的なテーマを扱っていたため、GHQが輸入を許可しなかったのかもしれません。当時は日本にも戦争孤児がたくさんいましたからね。今この映画を観ると、孤児に対する仕打ちがあまりにも非人間的で、常軌を逸脱したもののようにも見える。しかし当時はこれが、むしろ普通の光景だったのかもしれない。社会の人権意識というのは、この何十年かで大きく変わったのですね。

 青年がある種の犯罪者であることはすぐにわかってしまうので、謎のポイントは彼を追っている中年の男の正体になる。この描き方はなかなかうまい。中年男は青年の過去を知る男であり、青年の犯した罪の大きさを知っている男です。あるいはこの男、青年にとっての「影」のような存在かもしれない。青年も少し要領よく生きていれば、この男のようになっていたのでしょう。

 面白い映画だとは思いますが、ドラマとしては弱い部分もある。青年と中年男の関係はうまく描けていますが、ホテルに出入りしている少年との関係や、ホテルで働く若い女性との関係は中途半端に思えるのです。ジェラール・フィリップはがんばっているけど、周辺人物はもう少し掘り下げられたと思うけどな……。

(原題:Un Si Jolie Petite Plage)


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