映画の中でガルシア・ロルカを演じているのは、この映画の中で唯一のスター俳優であるアンディ・ガルシア。邦題が『ロルカ、暗殺の丘』であることから、この映画がロルカの伝記映画であるかのように誤解されるかもしれないが、それは少し違う。この映画ではガルシア・ロルカというひとりの詩人を、内乱勃発前の平和で自由なスペインの象徴にしているのだ。内乱が終わって表面的には平穏な日常が戻っても、内乱前に存在した自由は戻ってこない。陽気で楽天的なスペイン人の気質は失われ、世界に誇る輝かしい文化は消滅してしまった。そうした内乱前のスペイン文化を象徴するのに、内乱勃発と同時に殺されたロルカは打ってつけなのだ。この映画の原題は『DEATH IN GRANADA』だが、1936年夏にグラナダで死んだのは、ガルシア・ロルカというひとりの男だけではない。そこで死んだのは、スペインそのものなのだ。