タイムトラベラー
きのうから来た恋人

1999/09/10 ヤマハホール
核シェルターで35年暮らしていた青年が現代娘と恋をする。
主演はブレンダン・フレイザー。面白い。by K. Hattori


 1962年10月22日。ケネディ大統領はソ連がキューバに核ミサイル基地を建設中であると発表。艦艇183隻,軍用機1190機を動員してキューバを海上封鎖し、ソ連に対してミサイルの撤去を強く迫った。キューバ危機の勃発だ。世界が核戦争に一番近かったこの日の夜、ロサンゼルスの高級住宅街に1機の戦闘機が墜落した。墜落機の直撃を受けた住宅は大破炎上。発明家のカルヴィン・ウェバーと妊娠中の妻ヘレンは跡形もなく吹き飛んだ……と思われたのだが、じつは核戦争から逃れるため家の地下に作ったシェルターに避難して夫婦ともに無事。だが事故で地上との連絡は途絶え、ドアも自動ロックで35年間閉ざされたままになってしまう。地上で核戦争が起きたと思いこんだまま、ウェバー家には長男アダムが誕生した。アダムは外の世界を知らぬまま、すくすくと35歳の好青年に成長するのだが……。

 シェルターの中には、1950年代のアメリカが閉じこめられている。それは強くて、逞しくて、やましいところがひとつもない、世界の優等生だったアメリカだ。ベトナム戦争もまだ起きていない。音楽業界ではロックもまだ主流にはなっていない。フェミニズムも公民権運動もない。そしてセックスも恋もない。この映画は1950年代の古き良きアメリカと現代が出会い、和解する物語だ。『トゥルーマン・ショー』の後日談であり、プレザントヴィルの住人たちから見た『カラー・オブ・ハート』とも言えるだろう。古き良きアメリカを懐かしがるより、それを乗り越えて新しい時代を生きようとする前向きな姿勢は、どれも共通している。

 物語の中では、35年前の健全すぎる精神で純粋培養されたアダムと、'90年代風の利己主義と人間不信につかったイヴを対比させている。対照的なアダムとイヴには共通点も利害関係もない。でもふたりが急速に接近するのは、そこに恋が生まれるからです。若さと恋は、どんな困難をも可能にしてしまうのです。

 アダムを演じているのは、『ハムナプトラ/失われた砂漠の都』のブレンダン・フレイザー。イヴを演じているのは、『バットマン&ロビン/Mr.フリーズの逆襲』で健康的なバットガールを演じたアリシア・シルヴァーストーン。アダムの父をクリストファー・ウォーケン、母をシシー・スペイセクが演じています。意外なことに、スペイセクはこれがコメディ初出演だとか……。

 映画の見所は、35年ぶりに地上に出てきたウェバー一家の頓珍漢な行動の数々。風景の激変ぶりにショックを受ける父親の様子は爆笑ものだし、初めて見た外の世界にいちいち感激してみせるアダムの様子は感動的ですらある。他の映画で見たことがあるような場面も多いが、それも出演者たちの魅力で十分以上にカバーしていると思う。ラブストーリーとしてもよくできているし、僕は気に入った映画です。ゲイのトロイを演じたデイブ・フォーレイが、なかなかのもうけ役だったかもしれない。監督・脚本・製作はヒュー・ウィルソン。

(原題:BLAST FROM THE PAST)


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