季節の中で

1999/09/07 メディアボックス試写室
ベトナム系アメリカ人の新人監督が作ったベトナムが舞台のドラマ。
製作総指揮のハーヴェイ・カイテルは出演もしている。by K. Hattori


 今年1月のサンダンスで、グランプリと観客賞のダブル受賞という快挙を成し遂げた作品。物語の舞台はサイゴン(ホーチミン市)で、言葉もほとんどがベトナム語だが、これはれっきとしたアメリカ映画。監督・脚本・製作のトニー・ブイは、サイゴン出身で2歳の時渡米したベトナム系アメリカ人だ。1時間48分の中で4つの独立したエピソードが語られるが、個々のエピソードが独立したオムニバスではなく、それぞれのエピソードが周辺部で接し合う典型的なグランドホテル形式。それぞれに問題を抱えた登場人物たちがそれを克服し、最後はきれいにハッピーエンドを迎える感動作です。

 物語は4つのエピソードが平行して語られます。中年のシクロ運転手と若い娼婦のラブストーリー。街で蓮の花を売る娘と、病で隠遁生活を送る蓮畑の持ち主の交流。ベトナム女性との間に生まれた娘を捜しに来た、元アメリカ兵の物語。小さな木箱の中にガムやライターを詰め、街で売り歩く少年の冒険。ここで語られているのは、人間が自分や他人の過去や運命とどう折り合いを付けていくかというテーマです。若い娼婦はシクロの運転手の愛情を、自分の職業を恥じるがゆえに受け入れることができない。蓮畑の上で隠遁生活を送る男は、自分の病ゆえに社会から切り離される。アメリカ人の男は、恋人と娘をベトナムに置き去りにしてしまった自分自身の弱さを憎んでいる。映画の中では、こうした人々にそれぞれの救済が用意されている。物売りの少年の話だけは少し違っていますが、これは当然の話。少年は子供であるがゆえに、克服しなければならない過去も持っていない。少年の前には未来だけが広がっている。この映画では少年を登場させることで、過去と向き合う大人と、未来に向かって歩んでいく子供を対比させているのです。

 大人たちの3つのエピソードは、それぞれひとつのアイデアからできている短い物語と言ってもいいでしょう。この映画はそのひとつのアイデアを、深く深く掘り下げている。どのエピソードも、それだけを取り出して30分程度の短編映画にできる内容。4つのエピソードだと2時間の話になりますが、グランドホテル形式を採ることで、それが1時間48分にまで圧縮されている感じです。どこにもまったく無駄なところがない。エピソードのつながりにも違和感がなく、きびきびした歯切れの良さと清潔感があります。舌の痺れる人工甘味料のような甘さではなく、品のいい和菓子のようなサラリとした後味のよさ。それがこの映画の魅力だと思う。

 監督本人がアメリカ育ちなので、この映画で描かれているベトナムの現在が、ありのままのベトナムなのか、それとも外国人の視点というフィルターを通したベトナムなのかは不明瞭。しかしその不明瞭さが、この映画では心理的なソフトフォーカス効果を生み出している。生々しい現実を生々しく描くだけが映画ではない。そこにファンタジーの色付けがあってこそ、描かれる対象が光を放つこともあるのだ。

(原題:THREE SEASONS)


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