ウィズアウト・ユー

1999/08/31 有楽町朝日ホール
恋人に振られた映画監督は自暴自棄で結婚するが……。
U2のボノが俳優デビューしているのが目玉? by K. Hattori


 ミュージック・ビデオの監督として有名なジェイクは、ハリウッドに招かれて映画監督としてデビューすることになる。同じ頃、フランス人のファッション・モデル、ステラと恋に落ち、公私ともに絶好調のジェイク。だが映画作りに没頭するあまりステラと過ごす時間も減り、彼女が妊娠した時もあわてふためいてばかり。結局子供は中絶することになったのだが、撮影に夢中になっていたジェイクは彼女に付き添って病院に行くことすら忘れてしまった。ステラは写真撮影の仕事でフランスに旅立ち、ジェイクもプロデューサーとの対立が激しくなる。やがてステラはフランスから別れの電話を寄越し、ジェイクもプロデューサーから監督解雇を告げられる……。

 この映画の脚本を書き、監督したのは、U2のビデオや『愛という名の疑惑』『ヘブンズ・プリズナー』などの映画で知られるフィル・ジョアノー。映画の中の新米監督ジェイクはU2のビデオで有名という設定で、映画の中にはU2本人たちが登場するので、ジェイクとジョアノーはオーバーラップする部分が多い。当然、観ているこちらは「この映画はどこまでが自伝的な内容なのだろうか?」と思ってしまう。新米監督がプロデューサーに無理難題をふっかけられる場面など、当事者でなければ描けないようなリアリティがあって面白い。この辺はすべてが実話ではないにせよ、相当部分が監督自らの実体験に基づいているのではないだろうか。映画の主人公ジェイクは、映画が暗礁に乗り上げた後、U2のコンサートビデオを撮って憂さを晴らす。監督のジョアノーは、デビュー作『タイムリミットは午後3時』を撮った直後、『U2/魂の叫び』を撮っている……。

 映画のテーマは新人監督の苦労話ではなく、些細なことがきっかけで別れてしまった恋人に対する未練にある。別れるときは「コンチクショウ!」と思っていても、その直後から「あの時ああしてれば」「あの一言が失敗だった」などとクヨクヨ考えてしまうジェイク。彼女のことを忘れるために、別の女性とデートするがうまくいかない。あげくの果てに、酔った勢いで若い女の子と結婚してしまうのだが、それと入れ違いに元恋人から「もう一度会いたい」という電話が入って……。僕も似たような経験があるので、この主人公の気持ちはわからないではない。ただ、作り手に照れがあるのか、妙に技巧的な場面が多いのが気になる。「ああ、この気持ちはわかるな」と身を乗り出すと、画面がストップモーションになってもうひとりのジェイクが解説に現れたりする。あげくのはてに、猫がしゃべりだす。技術的には面白いけれど、ドラマ作りにはかえって邪魔だったかもしれない。

 主演は『ブレイド』のスティーブン・ドーフ。彼はいろいろな映画でベテランの俳優と組んでいますが、今回はU2のボノや、製作者のロバート・デ・ニーロがお相手。やはりオヤジ殺しだ。ステラ役のジュディット・ゴドレーシュは美人だけどパッとしない。むしろ結婚相手のケリー・マクドナルドが輝いています。

(原題:Entropy)


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