ハード・キャンディ

1999/08/23 SPE試写室
仲間を誤って殺してしまった女子高生たちの事件隠蔽工作。
最初はなめてましたが、結構面白いぞ。by K. Hattori


 原題の『JAWBREAKER』というのは、子供のこぶしぐらいの大きさがある固いキャンディのこと。あまりにも大きいので、口に放り込むとアゴが閉まらないし、噛むこともできない。丸飲みすれば喉が詰まる。日本では「ジョーブレイカー」と言っても通じないので、邦題は『ハード・キャンディ』。でもこれでは『BREAKER』という言葉が持つ暴力性が伝わってこない。僕はチラシに若い女優が3人並んでいるのを見て、高校が舞台のセックス・コメディかと思いました。一考の余地ありです。

 レーガン高校には、自らの美しさをひけらかし、誇らしげに廊下を闊歩する4人組の女子グループがある。4人は学校の中でいつも一緒にいる親友同士だが、中でもリーダー格と言えるのはリズ。彼女の17歳の誕生日、仲間3人が覆面姿で寝起きのリズを襲い、口をガムテープでふさいで車のトランクに押し込んだ。これは3人なりのビックリ・パーティ。誕生日に許されるおふざけだ。ところがトランクを開けてみれば、そこには口に放り込んだジョーブレイカーで窒息したリズの死体があった。度の過ぎた悪ふざけを後悔してももう遅い。3人は自分たちの罪を免れるため、事件の隠蔽工作をはじめるのだが、その現場を学校で一番地味なファーンという女生徒に見られてしまう。3人のリーダー格になったコートニーは、ファーンに対する口止めの条件として、彼女を学校で一番の人気者に変身させることになった……。

 映画の序盤はテンポが悪いのだが、事件の目撃者ファーンがおしゃれなバイオレットに変身したあたりから、物語はぐんぐん面白くなってくる。リズの事故死と隠蔽工作までは物語がひとつの視点から描かれるだけなのだが、バイオレットが登場してからは、犯罪スリラーの要素に加えて、美しい被造物が創造主に反抗するフランケンシュタイン型の物語がミックスされる。学園の新しい女王となったコートニーの巧妙で薄汚い事件隠蔽工作に対し、グループを抜けたジュリーがどう立ち向かうのかというお決まりの物語と、真面目人間だったファーンがバイオレットとして学園のアイドルになっていくという話が、不協和音スレスレの奇妙なハーモニーを生み出すのだ。これで話が破綻しないのだからすごい。

 主人公ジュリーを観客の共感を得られやすい人物にするためには、彼女をリズの死から免責しなければならない。映画ではそのために、コートニーを必要以上の悪党に描いているような気もする。ジュリーたちの目的も「法による正義」を求めるものではなく、親友を殺して学園トップの座に上り詰めたコートニーを、栄光の地位から引きずり下ろすことにあるようだ。学園のトップにいる性悪女を、女王グループからすべり落ちた主人公と、元学校一のダサイ女生徒、さらには運動部からホモ扱いされている演劇部の男子生徒がやっつけるという話は、最近のアメリカ映画でパターン化している「最後はオタクがヒーローになる」という形式を踏襲している。どこかでまた、この反動が来そうな気がするけど……。

(原題:JAWBREAKER)


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