チンパオ
陳宝的故事

1999/08/02 メディアボックス試写室
日本軍の中国侵略を「食料徴発」という側面から描いた反戦ドラマ。
話は面白いけど、人間関係の描写が薄っぺら。by K. Hattori


 第二次大戦における日本軍の加害責任を、戦場での「徴発」という側面から描いた作品。戦場での兵站(補給)という概念を持ち得なかった日本軍は、中国大陸の村々で、しばしば食料の徴発を行った。徴発と言っても、それは現地の人たちにとって強奪でしかない。武器を持った兵士たちが村に侵入し、銃を突きつけて食料品を奪っていくのだ。銃を持ち、組織的に行動する兵士たちは、村人から見れば「よく訓練された強盗団」でしかなかっただろう。こうした食料の現地調達に当時の日本軍がなんの疑問も持っていなかったことは、戦前に作られた戦争映画にも徴発の場面が登場することからもわかる。(さすがに村人を銃で脅す場面は出てこないが、徴発した食料を抱えて意気揚々と戻ってくる兵士たちの姿はしっかりと描かれている。)村人たちとて、自分たちが食うための食料を喜んで兵士たちに差し出したわけではない。徴発の現場では、トラブルも起きていたはずだ。

 物語は現代から始まる。戦争中の思い出を決して周囲に語ることなく過ごしてきた相澤老人は、上官だった堀軍曹の遺骨が日本に戻っていないこと、軍曹が戦死ではなく死亡扱いになっていることにショックを受けて、中国に渡ることになる。部隊の駐屯地だった桂林を訪れた老人は、現地でチンパオとチンポイの兄妹を捜す。当時まだ幼かった兄妹は、可愛がっていた子牛を日本軍に徴発されたのだ。なんとか子牛を取り戻そうと陣地まで付いてきたふたりと、学徒兵だった相澤との交流。上官の堀軍曹は兄妹に辛くあたるが、やがて彼も子供たちに心を開いて行く。しかし一度徴発した子牛を、そう簡単に兄妹に返すわけには行かない。やがて相澤たちのいる小隊は、敗走してきた中隊の指揮下に統合され、子牛も腹を空かせた兵士たちの食料になることに……。

 物語そのものは悪くないし、日本軍を単なる乱暴な侵略者として描くのではなく、善も悪も併せ持つ人間の集団として描く意欲は大いに評価したい。しかし軍隊内部の描写には、軍隊についての知識があまりない僕が見ても「そんな馬鹿な!」という部分があったのは残念。例えば主人公の相澤が営倉がわりの倉庫に入れられるとき、なぜ彼は小銃を持ったままなんだ? 堀軍曹が中隊長に向かってタメ口をきく描写も、非常に違和感がある。

 相澤老人が掘軍曹の死を回想していくミステリー風の演出なのだが、肝心の堀軍曹のキャラクターがいまひとつ未整理。彼がいつから兄妹を助けようとしたのかわからないし、軍隊内での彼の言動にもわかりにくい点がある。結局、小隊内部では経験の浅い小隊長より、叩き上げの堀軍曹の方が兵士たちの行動をよく掌握していたということなのだろう。小隊長としては、兵士たちが自分を軽んじ、堀を慕うのが面白くない。そんな気持ちがあればこそ、中隊長が現れると邪魔な堀を排斥するのだ。こうした軍隊内の人間関係を、もっとしっかりと描いてほしかった。そうすれば、堀軍曹ももっと魅力的な人物になったと思うんだけどな……。


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