dead BEAT

1999/08/01 サンプルビデオ
盗んだ車から発見された眼帯の美女とバッグの中の大金。
魅力的な設定だけでは魅力的な映画にならない。by K. Hattori


 柴田はさびれたバーを経営する30代の男。妻と子供に加え、莫大な借金と、殺人による逮捕歴あり。そんな彼も、今はやくざの世界から足を洗って、静かな団地暮らしに甘んじている。相棒の真は、現在定職もなくブラブラしている。趣味はゲーセンに通うことぐらいだが、それにも今ひとつ熱が入らない。

 そんな柴田と真が割のいいアルバイトにしているのが、駐車してある車を盗んで売り飛ばすことだ。ところがある日、ふたりは盗んだベンツのトランクに眼帯をつけた若い女が死んでいるのを見つける。厄介なことに巻き込まれたくないふたりは死体を山に捨てようとするのだが、再びトランクを開けた時、死んでいるかに見えた女がパッチリと目を覚まして起きあがった。記憶を失っているという眼帯の女を、ふたりは車に乗せて連れ帰る。女は逃げるでもなく柴田の店に一泊し、しばらくすると真の部屋に寝泊まりするようになる。だが彼女は記憶を失ってなどいなかったのだ。ベンツを盗まれた男はやくざで、彼女はその情婦だった。真は柴田に隠していたが、車の後部座席に置いてあるボストンバッグの中には、多額の現金が入っていた。車を盗まれたやくざは女と金を取り戻すため、柴田たちを追ってくる……。

 柴田を演じているのは哀川翔。真を演じているのは『バウンスkoGALS』の村上淳。眼帯の若い女エミを演じているのは『がんばっていきまっしょい』の真野きりなだ。エミを追うやくざ上村を演じているのは根津甚八。主な登場人物はこの4人になる。監督はピンク映画出身の安藤尋で、この作品が一般劇場公開映画デビュー。

 盗んだ車の中にあった、謎めいた美女の死体と大金の入ったボストンバッグ。主人公のひとりは、足を洗った元やくざ。もうひとりは、刺激のない日常に辟易している野心あふれる青年。やがて目覚めた女は記憶喪失。盗まれた金は、やくざが組織から横領していた金だ。これだけの設定があれば、あとはどんな面白い話でも作れそうなものなのに、この映画の印象はやけに地味。周囲が全部お膳立てをしているのに、いつまでも動き始めない登場人物たち。柴田は厄介ごとを避けて最初から逃げを打ち、真はそんな柴田にうんざりしながらも自分のポジションを動かず、エミも具体的な行動目的を明確にしない。盗まれた車を探す上村も、金を取り戻したいのか、それともエミを連れ戻したいのか、さっぱりわからない。

 映画が描いていることはおぼろげにわかるのだが、描こうとすることの焦点が絞り切れていないために、全体にボンヤリとした印象しか残らない。柴田や真や上村の心理をもっと掘り下げて行けば、また別のものが見えてきたのかもしれないが、この映画は心理を掘り下げず、彼らの行動だけを描いている。なぜ彼らがそう行動するのか、その根本が見えないことが、この映画に対する欲求不満になっているのだ。

 印象に残るのは、真野きりなの表情、特に目の鋭さだ。眼帯で片目を隠していても、その魅力は隠しきれない。


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