アラスカ

1999/06/27 東京アイマックス・シアター
広大なアラスカの大自然をアイマックスの大画面映像で堪能できる。
不毛の大地に見える氷河地帯は野生の王国だ。by K. Hattori


 アイマックスの大型映像を使った、38分間のドキュメンタリー映画。氷河時代の痕跡を今なお残すアラスカの自然と、そこに暮らす動物や人間たちの姿を、丹念な取材と迫力満点の映像で描いている。氷河時代には地球の水分が氷河という形で陸地に蓄えられていたため、海面は今より100メートルも低く、世界中の大陸はほとんどが陸続きになっていた。現在のベーリング海峡も分厚い氷河に覆われ、シベリアからアラスカまでは完全な地続き状態。この道を通って、ユーラシア大陸から多くの動物や人間たちがアメリカ大陸に渡って行った。アラスカは、そんな氷河時代の面影を今も残している。

 この作品で描かれているのは、「聖なる土地」としてのアラスカだ。アラスカは南北アメリカ大陸に暮らす先住民たちの祖先がユーラシア大陸からアメリカに渡って第一歩を記した土地であり、過酷な自然環境ゆえに今も人間の開発を拒む手つかずの処女地だ。人間の手の届かない土地で、動物たちは太古以来の生活を守っている。そこで営まれている、生と死のドラマ。小さな命が大きな命を養う食物連鎖。季節の変わり目ごとに生き生きと活動する、多くの動物たち。人間にとっては不毛の氷河地帯も、そこに暮らす動物たちにとっては肥沃な大地だ。凍てつく海でさえ、豊富な養分を蓄えて巨大なクジラたちを養っている。アラスカは動物たちの王国だ。

 しかしそんな土地の環境も、人間の生活にとっては厳しすぎる。広大な自然の中で自由闊達に動き回る動物たちに比べ、人間の何とちっぽけなことか。しかし自然と正面から対峙しながら暮らしている人間たちは、自然に対する敬意を忘れない。ちっぽけなボートで氷の海に漕ぎ出してクジラ漁をするイヌイットの人々の姿に、この映画の作り手たちは「自然と人間が調和した理想の姿」を見いだしているようにも思える。

 この映画には、生命の死がほとんど描かれていない。死の瞬間が直接的に描かれているのは、クマ食われるサケぐらいだ。イヌイットのクジラ漁では、ボートを出した次の瞬間にはクジラを引き上げるシーンになるし、オオカミがカリブーの回りをうろついていると思ったら、次の場面ではオオカミの食事シーンになる。シロクマはアザラシを襲わず、仲間同士でじゃれ合うだけだ。膨大な映像の数々を観ている限り、この映画のスタッフたちがイヌイットのクジラ漁やオオカミの狩りの現場を撮影していることは間違いないだろう。しかしこの映画では、「死の瞬間」を完全に画面の外に押しやっている。もちろん映像の前後関係やナレーションで、「死」の存在は観客に十分伝えられている。しかし映像でそれを描かないことで、映画から「死」は遠ざかり、アラスカの大地に満ちあふれる「生」だけがクローズアップされるのだ。

 大画面の迫力を痛感するのは、巨大な画面をギッシリとトナカイやサケや鳥の群が埋めつくす場面。同じような場面はテレビのドキュメンタリー番組で何度も見ているが、アイマックスで観ると鳥肌が立つような迫力だ。

(原題:ALASKA)


ホームページ
ホームページへ