男と女と男

1999/06/18 シネカノン試写室
妻が浮気していると知った夫は相手の男に近づいて……。
ジャン=ピエール・レオー主演のラブ・コメディ。by K. Hattori


 映画を観終わった瞬間、「これはロビン・ウィリアムズあたりを主演にして、ハリウッドでリメイクできそうだな……」と思ったのですが、じつは逆でした。中年男が別の人物を名乗り、妻と別の男の恋を邪魔するという話は、ウィリアムズ主演の『ミセス・ダウト』と同じなのです。映画を観て『ミセス・ダウト』との共通点を意識したからこそ、「この役はロビン・ウィリアムズでもいける」と思ったのでしょう。

 この映画でジャン=ピエール・レオーが演ずるニコラは、ロマンチストで情熱家。身も心も生活すべてを恋人アリスのために捧げ、それを少しも悔いてはいない専業主夫です。ところが、アリスにはガスパールという新しい恋人ができる。それを知ったニコラは、何とかアリスを取り戻そうとする。ニコラはピエールと名乗ってガスパールに近づき、彼にいろいろと恋のアドバイスをするのです。ガスパールはアリスからの話でニコラのことを知っていますが、それが目の前にいるピエールと同一人物だとは夢にも思わない。ニコラは人生経験豊富なピエールとして、ガスパールに様々なアドバイスをする。ニコラの計略にはまったアリスとガスパールの間には、瞬く間にすきま風が吹き始めるのだが……。

 監督・脚本のリュカ・ベルヴォーは、この映画が2作目。デビュー作が商業的に失敗したため、2作目のこの作品ではあえて古典的なラブ・コメディーに挑んだという。前作からは5年の間隔があいているので、「きっと苦労したに違いない」と思いますが……。この映画は筋立てのユニークさも目を引きますが、それ以上に素晴らしいのは主人公ニコラのキャラクターであり、演じているジャン=ピエール・レオーの存在感です。永遠の少年とでも言うべきニコラは、ときに現実離れした突飛な行動を取るのですが、レオーがそれを演じると、そこに白々しさがないのです。「ニコラはこういう男だから、きっとこうするに違いない」という行動を、きちんとキャラクターの中に消化している。これは脚本の巧みさもあるのですが、それ以上にレオーの功績だと思う。

 女弁護士のアリスが法廷で不倫殺人の弁護をし、さんざん不倫の不道徳性を糾弾しながら、私生活では夫に隠れて不倫をしているというギャップ。この映画では「不倫=不道徳=悪」という面と、「不倫=自由な恋愛=善」という面とを、どちらかに裁定することがない。不倫相手のガスパールはいい男だし、妻の不倫に苦しむニコラもいい人です。アリスはそんなふたりの間で揺れ動く。こうした映画を観て「不倫はいけないことなんだから、アリスはニコラとよりを戻すのが正しい」と割り切ってしまえる人は、恋愛経験に乏しい人だと思わざるを得ない。倫理や道義性などというものはあくまで一般論であって、個々の恋愛を一律に裁くことはできないのです。この映画のラストシーンでは、恋の行方について何の決着もつけていない。伝わってくるメッセージは「恋をすることは素晴らしい」ということだけです。

(原題:POUR RIRE!)


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