老人と海
ヘミングウェイ・ポートレイト

1999/06/16 東京アイマックス・シアター
ヘミングウェイの生涯を描くドキュメンタリーと、代表作『老人と海』の2部構成。
『老人と海』では主人公の声を三國連太郎が演じる。by K. Hattori


 アイマックス・シアターの大型2D映画。ノーベル賞作家アーネスト・ヘミングウェイの生涯を簡単に紹介した短編ドキュメンタリー『ヘミングウェイ・ポートレイト』と、彼の代表作「老人と海」をロシアのアニメ作家アレクサンドル・ペドロフが映像化した作品との2部構成。『ヘミングウェイ・ポートレイト』は上映時間17分ばかりの映画で、ヘミングウェイの生涯をたどるにしても短すぎるのだが、ここでは名作「老人と海」に至るまでの彼の心理面にスポットを当て、力強い映像作品に仕上げている。少年時代を過ごしたミシガンでの思い出、第1次世界大戦やスペイン市民戦争、闘牛への憧憬、アフリカでのハンティング、そしてキューバの海。彼の作品紹介を割愛し、恋愛や結婚にまつわる話もせず、「野生との対峙」「生と隣り合った死」というテーマだけで、すべてをカリブ海の老猟師の物語まで運ぶのだ。

 この映画ではアイマックスの大型スクリーンの威力と共に、音響のよさを痛感させられた。森林地帯の澄んだ空気、戦場の硝煙の匂いなどが、スピーカーを通じて客席まで伝わってくるようだった。特に戦場の場面では、爆風で吹き飛ばされた土砂や細かいがれきが、自分の耳の後ろにまでパラパラと落ちてくるような迫力。スペインの闘牛祭の場面では、画面の中を実物大の牛が暴れ回る迫力満点の映像に、思わず手に汗握ります。

 しかしこの映画の最大の見どころは、やはり第2部の『老人と海』でしょう。アメリカ人の作家ヘミングウェイが書いたキューバ人猟師の物語を、ロシア人のアニメーション作家が映像化するということからも、「老人と海」という作品が「アメリカの文学」ではなく「世界文学の遺産」であることがよくわかります。僕も昔、文庫本でこの小説を読んだことがありますが、じつのところどこがいいのかよくわからなかった。今回のアニメを観ても、物語としての面白さはよくわからない。原文で読まないと、やはり文学は理解できないのだろうか……。

 今回のアニメ版『老人と海』には、アニメーション作品としての面白さがあります。小さな漁船で海に乗り出し、巨大なカジキと格闘する老人の姿は『ジョーズ』ばりの大迫力。油絵のようなタッチで描かれた映像が、老人とカジキの1対1の戦いを見事に描き出している。痩せ衰えた体に渾身の力を込め、釣り糸をたぐり寄せる老人の姿。ボートの縁に足を踏ん張ると、カジキは老人を船ごと引っ張り回す。水中で息を潜めていたカジキは突然水面に躍り出て老人をあわてさせるが、彼は銛を片手に最後の対決に挑む。カジキが糸を引いて猛スピードで泳ぎ始めると、水中に垂れていた糸が水面を切って走る走る。このスピード感と迫力は、実写以上でしょう。

 この映画は1部も2部も日本語吹替版。『老人と海』で老人の声を担当しているのは名優・三國連太郎、彼を慕う少年を担当したのは松田洋治です。映画はほとんどが老人の独白なのですが、三國連太郎の重厚な声の芝居からは、主人公の人生の重みが伝わってきます。

(原題:The Old Man and the Sea / Hemingway: A Portrait)


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