Trancemission

1999/06/15 シネカノン試写室
ビデオクリップ出身の高橋栄樹監督が作ったパラノイア・ムービー。
ザ・イエロー・モンキーが映画初出演している。by K. Hattori


 ビデオクリップの世界で活躍している高橋栄樹監督が、初めて撮った長編劇場用映画。村上淳演ずるひとりの男が、謎の陰謀に巻き込まれるスリラーだが、話は猛烈なスピードで暴走し、もつれて迷走したまま終わる。ただしこれは、脚本がヘタクソだとか、演出の不手際とか、そういう問題ではない。この映画の中では、最初から暴走や迷走が織り込みずみなのだ。観る者を混乱させ、映像と音で強引に「別の世界」に引き込んでいくのが、この映画のやろうとしていることだろう。これにハマッてしまえば、かなりスゴイ映画なのかもしれないが、僕は混乱ばかりが先に立って、途中で寝てしまった。フランス映画祭で身も心もグッタリ疲れていたところに、塚本監督の『双生児/GEMINI』を観てヘトヘトになり、さらにこの映画でだめ押しを食った気分。脳味噌がおぼろ豆腐になるかと思いました……。

 見どころは人気バンドのザ・イエロー・モンキーが登場するところと、映画を埋めつくす圧倒的なビジュアル・イメージの洪水。セットや小道具などの趣味もいいし、照明やフィルターを使って映像に微妙なトーンを付けているのも面白い。圧巻なのは互いに脈絡のない映像が1秒の何分の1というスピードで目まぐるしく登場するクライマックスで、これはモンタージュというより映像のコラージュです。しかしこうした映画で、1時間14分という上映時間は長すぎる。観客にビジュアルで鮮烈な印象を与えるには、観客がそこに集中していられる時間を考える必要があると思う。アイマックスシアターで上映される作品が必ず40分程度なのには、きちんと理由があるのです。この映画も、45分ぐらいにすればもっと楽しめると思う。一番いいのは30分以下まで圧縮することです。劇場公開するのに尺が足りないのであれば、今までに作ったビデオクリップを集めた「高橋栄樹作品集」を併映すればよい。

 ストーリーはパラノイアの幻覚のようなもので、物語を頭から順に追っていくのは非常に困難。どこまでが現実で、どこからが幻想なのかまったくわからない。そこに明確な境界線があれば、話は一気に単純になるだろうが、この映画では夢と現実が常に同一線上にあるのです。僕はこの映画を観て、つい先日観た『チャパクア』という映画を思い出した。僕はあの映画でも寝ちゃったんだよね。『Trancemission』は『チャパクア』のテンポを、10倍にスピードアップしたような映画です。

 主演の村上淳や川合千春より、ザ・イエロー・モンキーの面々の方が存在感があるのは、計算なのか計算外なのかわからない。ストーリーの中心にいるはずの村上淳が持つ求心力より、物語を解体して行くザ・イエロー・モンキーの遠心力の方が大きいのです。川合千春に至っては、何のために出てきたのかさえよくわからない。全体を整理することが目的の映画ではないから、これでも別に構わないのかもしれないが……。好きな人は好きでしょうけど、僕にはわからない映画でした。


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