アステリクスとオベリクス

1999/06/10 パシフィコ横浜
(第7回フランス映画祭横浜'99)
ローマ軍団を打ち破ったガリア人たちを描くコミカルな冒険映画。
フランス映画史上最大の製作費だとか。by K. Hattori


 「ガリア戦記」で有名なジュリアス・シーザーのガリア遠征を背景に、ローマ軍の侵略に反抗するガリア人たちの奮闘ぶりを描いたコメディ史劇。周囲の村がすべてローマに屈伏した後も、あるガリア人の村だけはローマに楯突き続けた。じつは村には魔術師が作った不思議な薬があり、それを飲んだ村人は怪力の持ち主になるのだ。薬の効き目は10分間。だが赤ん坊のとき薬の鍋に落ちたオベリスクは、成長しても薬なしに怪力を発揮できるのだ。少しオツムの弱いオベリスクには、幼なじみのアステリクスという知恵者の相棒がいる。ローマ軍はこの小さな村を無視しておこうと考えたのだが、財務官たちの馬車が襲われ、徴収した税金を奪われたことからシーザーが激怒。ガリア地区の全軍をあげて、アステリクスとオベリスクのいる村を殲滅しようとするのだが……。

 気が優しくて力持ちのオベリクスを演じているのは、フランスの名優ジェラール・ドパルデュー。この人はどんなに偉くなっても、堂々と田舎者の大馬鹿者を演じ続けられる俳優です。顔はでこぼこでお世辞にもハンサムとは言えないし、体がでかくて太っているというので、都会派の二枚目は絶対に演じられない。でもこの手の肉体労働者タイプを演じると、じつにハマルのです。映画界で出世して大金持ちになっても、どこかで土の匂いの残る俳優なので、今回の役は打ってつけでした。相棒のアステリクスを演じているのは、コメディアンのクリスチャン・クラヴィエ。シーザーを裏切ってローマを我が物にしようとする腹黒いローマ軍参謀を演じているのは、お調子者のロベルト・ベニーニ(『ライフ・イズ・ビューティフル』でアカデミー賞受賞)です。

 物語そのものは他愛のないものですが、大がかりなオープンセット、大量の小道具や衣裳、手間のかかるSFXなどを駆使して、大人も子供も楽しめる娯楽大作になっている。製作費の2億5千万フランは、フランス語映画圏では史上最大だそうです。最近の「歴史劇」にはリアリズム一辺倒で汚らしいものも多いのですが、この映画はファンタジーだと割り切って、映画という作り物の面白さを堪能させてくれる。この映画は原作がコミックということでお子さま客も意識しているのか、ギャグも下品にならず、残酷な場面もほどほどで、セックスがらみのエピソードは一切なし。SFXを使ったフランスのコメディ映画には『おかしなおかしな訪問者』や『俺たちは天使だ』などの傑作がありますが、そこで観られた毒々しいまでに脂っこいギャグを期待すると、この映画はやけにあっさりした味わいになっています。

 誰が観ても楽しい映画だと思うのですが、この映画はまだ日本での配給が決まっていません。製作費が高額だった分、契約料も高くなって買い手がつかないのでしょう。フランス映画は上映できる劇場が限られているし、ビデオにしてもあまり数が出ないので、日本の配給会社やビデオメーカーは敬遠しがちなのです。日本未公開になりそうな映画が観られるのは、映画祭の楽しみです。

(原題:ASTERIX ET OBELIX CONTRE CESAR)


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