暗殺の瞬間

1999/05/13 東映第2試写室
スウェーデン首相暗殺事件の実話をもとにしたサスペンス映画。
構成に難はあるが、格調高い本格派だ。by K. Hattori


 1986年2月28日。ストックホルムの路上で、スウェーデンの首相オロフ・パルメが射殺された。夫人と映画を観ての帰り道を、何者かに後ろから銃撃されたのだ。犯人はその場から逃走し、事件は迷宮入りしてしまう。パルメ首相は国際的にも有名な反核・軍縮運動家で、国内外に彼の言動を面白く思わない人間が大勢いた。当時は冷戦時代末期。東西のパワーゲームが苛烈を極める中で、「北欧を非核地帯に」という彼の主張が平和運動家たちからは支持され、政治家たちからはうるさがられていた。彼を殺したいと願っていた勢力は、ひとつやふたつでは済まない。誰がパルメ首相を殺したかについては、事件直後から様々な仮説がささやかれていたが、いまだに決定打となる証拠も証言もなく、事件の真相は闇に包まれたままだ。そこで一体何が起きたのか?

 この映画はそんな実在の事件をモチーフにした、ハードボイルドタッチの犯罪スリラー。暗殺事件の前年。警察の特殊捜査班で捜査にあたっていた刑事が、偶然担当した不正パスポート使用事件を調べるうち、首相暗殺計画にぶちあたる。その過程で明らかになってくる、スウェーデンの置かれた特殊な政治状況。しかし首相暗殺計画を察知した刑事は、どういうわけか捜査担当をはずされてしまうのです。テロリストたちは警察の監視も追跡もないまま、決行の日に向けて着々と準備を進めているが、主人公はそれを知りつつ為すすべもない。どうやら警察内部には首相暗殺を黙認しようとする勢力があり、それが主人公の刑事に圧力をかけているようなのだ。

 首相が暗殺されるという結論は歴史的事実なので、刑事がそれを食い止めようと奔走しても、それが徒労に終わることはわかっている。にも関わらず、この映画では刑事が暗殺を阻止できるか否かをクライマックスに持ってきてしまった。映画は憔悴しきった主人公が、自分の出会った事件の真実を回想する形式で進められる。つまり映画の冒頭の場面では、既に事件のすべてが終わっているわけだ。こうした手法を取るのであれば、最初から「パルメ暗殺」という結論を観客に見せてしまい、主人公がいかにして追いつめられ、身動きできなくなっていくかを中心に物語を組み立てるべきだったと思う。画面に現れる日付の表示も単純に年月日を出すだけでなく、「首相暗殺まであと○ヶ月」「首相暗殺まであと○日」「首相暗殺まであと○時間」「首相暗殺まで○分」とカウントダウンしていく方法もあったはずだ。

 刑事側がやけに不甲斐ないのに比べると、テロリストたちの動きがじつに鮮やか。用意周到な計画、実行に向けての執念深さ、そして自分のリスクを少しでも減らそうとする注意力。あらゆる人間を利用し、使い捨てにする非情さと、奇妙な人間的魅力が同居したテロリストが、やけに格好よく見えてしまう。細かいところに難もありますが、全体的に格調高く丁寧に作られた本格サスペンス。本格スパイ映画『アサインメント』をさらにハードにしたような、見応えのある作品でした。

(原題:SISTA KONTRAKTET)


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