眠狂四郎無頼剣

1999/04/27 徳間ホール
柴田練三郎原作、市川雷蔵主演の眠狂四郎シリーズ8作目。
敵役は天知茂。昭和41年生作の大映作品。by K. Hattori


 市川雷蔵主演の眠狂四郎シリーズ8作目。監督は大映を代表する名監督・三隅研次。脚本は戦前派の名匠・伊藤大輔。大映時代劇の凄味は、一線を退いたかつての名監督たちを脚本家として起用し、脂の乗りきった戦後派の監督たちに演出させたことにある。古い革袋に新しい酒を注いで成功している例だ。三隅監督は『座頭市地獄旅』でも伊藤大輔の脚本を演出しているし、同じ雷蔵の『大菩薩峠』では衣笠貞之助監督の脚本を演出している。

 こうした新旧名匠の合作は、もちろん大映時代劇のすべてに見られる現象ではない。眠狂四郎シリーズにしても、脚本の大半を書いているのは星川清司だ。だが伊藤大輔や衣笠貞之助のような、いわば「時代劇生みの親」のような人たちの血を少しずつ新作の中に取り込むことで、時代劇が時代劇そのものを模倣してマンネリに陥ることを避けようとしたのではないだろうか。時代劇映画で大映と並ぶ東映が同じように戦前派を重用しながら、それが主に片岡千恵蔵・市川右太衛門らの俳優中心になり、スタッフが彼らの顔を立てるために映画そのものがどんどんパターン化されたマンネリズムに陥っていったのとは対照的だ。眠狂四郎や座頭市などの作品は、今でも若々しいエネルギーを放ち、新たに若いファンを獲得し続けている。(もちろん、僕もそのひとりだ。)対する東映時代劇は、一部の例外を除いてほとんどがご存じ物のオンパレードであり、今では新たなファンを獲得する力をすっかり失っているようにも思える。(そのマンネリズムも、また楽しいのだが……。)

 『眠狂四郎無頼剣』は、主人公狂四郎と戦う敵役に天知茂を配しているのが嬉しい。天知茂と言えば、座頭市の記念すべき1作目『座頭市物語』で平手造酒を演じていた俳優。新東宝の『東海道四谷怪談』も忘れられない。テレビでは「非情のライセンス」や「明智小五郎シリーズ」などの現代劇が有名だが、時代劇ファンにとっても天知茂は大スターです。この映画の中では、最後に天知茂と雷蔵が屋根の上で立ち回りを演じる。屋根の上での立ち回りで思い出すのは、この映画の脚本を書いた伊藤大輔監督の『御誂次郎吉格子』や『素浪人罷通る』だったりするわけで、この映画にはサイレント映画から始まった時代劇の伝統が、伊藤大輔という名匠を通じて脈々と受け継がれているわけだ。時代劇映画というジャンルが滅んでしまったことで、こうした活劇の伝統が途絶えてしまったことが惜しまれる。

 狂四郎の台詞回しは歌舞伎調の重々しい物だが、それが映画のリアリズムとぶつかり合うことで、狂四郎のキャラクターを生み出している。低く抑えた声なのに、雷蔵の声音は少しも曇ることなく明瞭そのもの。三隅監督の画面構成は端正でスタイリッシュ。シネスコの横長画面を半分ぐらいシャドウ部や遮蔽物で斬り捨てる大胆な構図は、ビスタサイズが主流の今となっては誰も真似のできないものでしょう。こんな映画がごく普通に作られていた、時代劇全盛時代のすごさを実感できます。


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