アドレナリンドライブ

1999/04/22 東映第2試写室
ヤクザの裏金2億円を手に入れた男女のハチャメチャ逃避行。
『ひみつの花園』の矢口史靖監督最新作。by K. Hattori


 『裸足のピクニック』や『ひみつの花園』で、日本映画には珍しいサディスティックな笑いを生み出した、矢口史靖監督の最新作。バカ正直でお人好しな性格のため、要領よく人生を立ち回れないレンタカー屋の従業員と看護婦が、偶然手にしたヤクザの裏金2億円。ふたりはこの金を目の前にして、人生でたった1度の軽はずみな行為に出た。誰も見ていないのをいいことに、この金をネコババしてしまったのだ。ところが死んだはずのヤクザが生きていて、ふたりを追いかけ始めたから大変。さらに、ヤクザの舎弟たちがゾロゾロ現れて、ふたりは絶体絶命のピンチに追い込まれて行く。今さら警察には駆け込めない。思わぬ大金を手にして天国かと思いきや、一瞬の後には地獄の底に真っ逆さまなのか!

 主演は『キッズ・リターン』で各映画賞の新人賞を取ったものの、その後はどの映画もパッとしなかった安藤政信。ヒロインの地味な看護婦役が石田ひかり。手に汗握る冒険活劇のくせに、映画の冒頭で登場するふたりの主人公があまりにも大人しくて優柔不断。それが大金を前にして、自分たちでも驚くほど大胆な行動を取り始めるギャップが面白いの。血の付いた札束を洗濯する場面は『バウンド』にも登場しましたが、この映画の主人公たちは、それよりもっと能率的です。

 この映画は試写段階からかなり評判がいいのですが、僕は期待していたほどではなかった。今回の映画はへんに器用に作ってあって、『裸足のピクニック』や『ひみつの花園』のような無茶をしているところがない。例えば『裸足のピクニック』では人間の身体を真っ二つに引き裂き、『ひみつの花園』では主人公を地下水脈に流してしまったように、有無を言わさずに「これでどうだ!」と迫ってくる部分がないのです。あるいは『裸足のピクニック』で主人公を襲う徹底した不幸や、『ひみつの花園』で主人公を形作っているお金に対する執着のよに、世間一般ではネガティブな評価しか受けない事柄が、物語をぐんぐん引っ張って行く面白さがない。

 この映画の中でネガティブな事柄は、主人公たちの煮え切らない態度でしょう。しかしそれが大金を前にして変化してしまうため、映画を最後まで牽引する力にはならない。僕はむしろ、主人公たちが大金を前にしてもやはりウジウジと優柔不断なまま時間を過ごした方が面白かったと思う。一度こうと決めたはずなのに、いざとなるとあっちにフラフラ、こっちにフラフラしながら行動の振幅が大きくなって行く。その場その場で明確な結論を下さないまま生きてきたふたりだから、大金を手に入れて行動が大胆になっても、いつも一貫性のないデタラメな行動に走ってしまう……。そんな物語の展開も、ひょっとしたらあり得たのではないだろうか。

 行動がデタラメという点では、ジョビジョバが演じたチンピラたちの方がはるかに面白かった。石田ひかりの同僚を演じた真野きりなが、少ない登場シーンで強い印象を残すのはさすが。


ホームページ
ホームページへ