シェイディー・グローヴ
SHADY GROVE

1999/03/30 東宝東和一番町試写室
恋人に突然振られた女が、たまたま電話で知り合った男と話をする。
『Helpless』『WILD LIFE』の青山真治監督作品。by K. Hattori


 『Helpless』『チンピラ』『WILD LIFE』『冷たい血』など、デビュー以来コンスタントに作品を発表している青山真治の最新作。主演は『東京兄妹』の粟田麗と、『ワンダフルライフ』のARATA。半年つきあった恋人に振られたばかりの女と、会社のなかで行き詰まりを感じている映画宣伝マンが、偶然知り合って友だちのような関係になる。女はかつての恋人が忘れられずにストーカーまがいの行為に走り、男は会社に辞表をたたきつけて流浪の身となる。共に傷ついたふたりがいきなり恋人同士になるわけもなく、ふたりの周囲でゆっくりと時間が流れ、刻々と状態は変化して行く。

 タイトルの『シェイディー・グローヴ』というのは、「影のある森」という意味。これはヒロイン理花がかつて遊んだ森であり、理花のアルバムの中にある「思い出の森」につながっている。この映画の中では森の風景がフィルムで撮影され、その他の場面はデジカムで撮影されている。その結果、都市や部屋の中の風景は少し乾いたタッチになり、森の中は艶やかで瑞々しい映像になっているのだ。こうした画面の変化によって、主人公たちが最後に心のよりどころとするのが「森」であることがわかる。森は夢の中にある。ふたりは同じ夢を見ている。

 粟田麗は『東京兄妹』以来、あまり映画で姿を見ることがなかったのだが、この映画では恋に不器用な24歳のOLを好演している。大好きな人が、なぜ自分から去っていったのかわからない。恋愛のマニュアル本を見ながら、本では絶対に禁じ手とされている予告なしの訪問や電話攻勢をし、はては私立探偵まで雇って彼の身辺を探りはじめる。一歩間違えればストーカー。いや、これだけでも十分にストーカーじみた行為と言える。でも、彼女は自分の恋に一途だからそうした行為に及ぶわけで、彼女の立場に立って映画を観ている側は、彼女に同情しこそすれ、彼女の行動が異常だなんて思わない。問題は彼女がのめり込んでいる男が、どう見ても誠実な人間に見えないことだが、恋とはそうした相手の欠点に目をつぶって、自分まで見失ってしまうことなのかもしれない。

 僕は青山真治監督の作品をほとんど全部観ているが、『Helpless』や『チンピラ』『冷たい血』のようなバイオレンス映画はあまり好きではなく、『WILD LIFE』のようなラブコメは大好きだ。今回の映画は、暴力シーンが一切ない。なら、僕はこの作品が気に入ったかというと、必ずしもそうではない。僕はもっとガッチリした映画の方が好きなのだ。この映画から僕は、着地点を探してフワフワと滑空を続ける紙飛行機のような、頼りない印象を受けてしまう。これを軽やかさと受け止める人もいるだろうが、僕には少し物足りないのです。

 興信所の探偵を演じている光石研は、青山監督作品のレギュラー俳優。今回プレスを観て、彼が『シン・レッド・ライン』に出演していることに気づいた。そういえば、よく似た日本兵が出てきたなぁ……。とっさに思い出せなかった自分がうかつでした。



ホームページ
ホームページへ