ラ・ジュテ

1999/03/19 TCC試写室
廃墟になった未来から過去に送り込まれた男の運命的な恋。
後に『12モンキーズ』としてリメイクされた。by K. Hattori


 映画の基本は「動く絵」であるはずなのに、それを拒絶してしまった映画。29分の上映時間をモノクロのスチル写真で構成し、そこにナレーションをかぶせるだけだ。状況説明をすべてナレーションでこなすので、この映画には登場人物同士の会話さえない。しかしこうした表現上の制約が、映画の内容をまったく制約していないのがすごい。この映画はテリー・ギリアム監督が『12モンキーズ』としてリメイクしているが、両者の違いはブラッド・ピットが出演しているか否かという程度。感動のポイントも、ラストの衝撃も、じつは『ラ・ジュテ』の方がはるかに勝っているのだ。

 この映画はスチル写真が連続して画面に映し出され、そこにナレーションをかぶせているようにも見えるが、じつはもう少し凝った作り方をしている。ムービー・カメラで最初は「動く絵」を撮っておき、それを編集段階でわざわざストップモーションにしているのだ。絵と絵がカットでつながれる場合もあるし、なめらかに次の絵へとオーバーラップしてゆく場合もある。紙焼きを再撮影して、カメラがパンするのと同じような効果を生みだしている場面もある。すごく手間のかかる作業だ。監督は後に黒澤明のドキュメンタリー映画『AK』を撮るクリス・マルケル。本作は1963年のジャ・ヴィゴ賞と、トリエステSF映画祭金賞を受賞している。

 この映画は6月からシネセゾン渋谷で「ヌーヴェル・ヴァーグの展開/近未来への旅」と題して、ゴダールの『未来展望』と2本立てでレイトショー公開される。『ラ・ジュテ』は今回が日本での劇場初公開。じつはこの映画、『未来展望』とあわせて少し前に試写で観たのだが、その時はあまりの単調さに寝込んでしまった。モノクロのスチル写真が次々にスクリーンに映し出され、そこにベッタリとナレーションと音楽がかぶさるだけの映画なので、よほど体調を整えておかないと眠くなるのは必至。今回は前の晩も早めに寝て、体調を整えて試写室に向かったのだが、それでも前半で少しウトウトしそうになった。ところが、全部がスチルで構成されていると思われたこの映画には、1ヶ所だけ画面が動くところがあるのです。時間にしてほんの数秒。ベッドの中でまどろむ女が、2,3回まばたきをする瞬間だけが動く絵として処理されている。僕はここで一気に目が覚めた。

 このわずか数秒の映像によって、それまでただの紙芝居でしかなかったスチル映像の羅列が、生き生きと動き始める。スチルとスチルの間にある「移動の省略」が、むしろ普通の映画以上に「動き」を感じさせるようになるのだ。ラストシーンに至っては、スチル写真だけでカットバックやスローモーションの効果を生み出すという離れ業まで見せてしまう。これには驚いた。

 『12モンキーズ』はこの映画を脚色して4倍以上の時間(2時間10分)に引き延ばしたわけだが、それで感動が4倍になるわけではない。『ラ・ジュテ』には『12モンキーズ』のエッセンスがすべて詰まっている。

(原題:LA JETEE)


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