ムーンライト・ドライブ

1999/03/16 徳間ホール
不倫の代償は高くつく。でもこれほどの目にあうのは理不尽か。
スコット兄弟がプロデュースしたサスペンス映画。by K. Hattori


 亭主持ちの尻軽女と軽い気持ちで関係を持ったら、亭主がそれを知って主人公の目の前で自殺。気の弱い亭主は女房の浮気相手を殺すより、相手に自分の死の責任をなすりつけることを選んだのだ。自殺に使われた銃は主人公のもの。現場には争った跡が残り、他の目撃者も皆無。このままでは、主人公が殺人容疑者になることは明白だ。彼を救えるのは、自殺した男の女房しかいない。彼女が主人公との関係を明らかにして、亭主が嫉妬のあまり自殺したのだと証言すれば、事態は丸く収まる。だが亭主の死を知った女は眉ひとつ動かさず、「私は関係ない。あんたが警察に捕まろうと、私は無関係だと言い張る」と宣言。主人公はやむを得ず、死体をトラックに乗せて崖下に突き落とし、トラックは爆発炎上、死体は黒こげ、事件は飲酒運転中の事故として処理された。だが、これはほんのきっかけにすぎない……。

 この映画の監督デヴィッド・ドプキンは、CMディレクター出身。リドリー・スコットとトニー・スコットが経営するCM製作会社で働き、今回が映画監督デビュー作となった。晴れがましい門出の作品に対しては、製作総指揮と製作をスコット兄弟が勤めるという念の入れよう。この兄弟が同じ作品でクレジットに名前を出すことは本当に珍しく(テレビシリーズの「ザ・ハンガー」が記憶にある程度)、この作品と監督にかける意気込みがうかがえる。冒頭からストーリーが二転三転するスリル満点の脚本を書いたのは、やはりこれがデビュー作となるマット・ヒーリー。運の悪い主人公クレイを演じたのはホアキン・フェニックス。性悪女アマンダを演じているのはジョージナ・ケイツ。クレイを助けるトラックの運転手レスターを演じるのはヴィンス・ヴォーン。殺人事件を捜査するFBIの捜査官がジャニーヌ・ギャロファロ。出演者の顔ぶれに派手さはなものの、しっかりした実力派が揃っています。映画の中では製作者のリドリー・スコットに敬意を払って『エイリアン』のビデオを見る場面があるなど、遊び心も満載。

 にも関わらず、映画の印象はやけに重苦しい。不倫、自殺、殺人、変死体、連続殺人など、扱っているモチーフが重苦しいからこれは当たり前なのだが、BGMにカントリーを使ったり、要所にユーモラスなエピソードをはさみこむなど、陰惨で逃げ場のない話をブラック・ユーモアにしようという意図は見える。だが、そうした描写に軽やかさがなくて妙にベタベタしているため、映画全体が湿気た花火のようにブスブスと煙ばかり多くなっている気がする。これをトニー・スコットが演出していれば、『トゥルー・ロマンス』のような快作になっていたかもしれないけど、新人監督にそれを求めても、ちょっと荷が重すぎるかもしれない。

 殺人犯に濡れ衣を着せられる主人公という設定は、ヒッチコックの『見知らぬ乗客』を連想させます。意味もなくライターがクローズアップされるのは、監督たちもヒッチコック作品を意識している証拠かな?

(原題:CLAY PIGEONS)


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