エロティカ

1999/03/08 アップリンク・ファクトリー
女性たちが性表現のタブーを打ち破ってきた歴史を、
インタビューで構成した記録映画。by K. Hattori


 ラップ歌手、作家、カメラマン、ポルノ女優、映画監督など、さまざまな職業分野で活躍している女性たちが、自らの「性」を語ったドキュメンタリー映画。最年長の出演者であり、この映画最大の目玉になっているのは、ポルノ小説の古典「O嬢の物語」の作者ポーリーヌ・レアージュ。以下、元ポルノ女優で、現在は女性向けのポルノビデオをプロデュースしているキャンディダ・ロイアル。元ポルノ女優で、現在はパフォーマー、映画監督として活躍しているアニー・スプリンクル。SMの女王様ジャンヌ・ド・ベルグ。官能的な小説「肉屋」の著者アリーナ・レイエス。女性のヌードを撮り続ける写真家ベッティナ・ランス。レズビアンのファンタジーを写真に撮るフィリス・クリストファー。レズビアン・バーでホストを勤める、パフォーマーで性教育者のカーリン・ロトニー。女性のセックスに対する欲望を歌うラップ歌手、リックことアンジェリック・バンクストン。アマチュア小説家としてエロティックな物語を書いているロニリン・パスティルなどが出演している。監督はカナダ出身のマヤ・ガルスで、これが長編処女作だそうです。

 今では女性が自らの性や性欲について語ることを、特別にタブー視することはほとんどなくなりましたが、それでもそうした行為はちょっと行儀の悪い、ふしだらなことだと受け止められているのではないでしょうか。しかしこの映画に登場する女性たちは、そうした世間の風潮に挑戦し、風穴を開けてきた人たちです。かつては小説の中で女性の欲望を描いただけで、「女に性欲はないのだから、この文章を女性が書いたはずはない。だから作者は男性である」と決めつけられてしまうことがあったそうで……。「O嬢の物語」なんて作者の実名こそ長年伏せられていたものの、ポーリーヌという女性名で書かれた本なのに、ずっと「これは男性が書いた本だ」といわれ続けてきたのです。今となっては隔世の感があります。僕はこの映画に登場する人たちの中で、唯一知っているのがレアージュだったのですが、やはり実際に映画の中で姿を見るまでは、ミステリアスな匿名作家が本当に女性なのかどうかに疑いを持ってました。この映画が撮影されたとき、レアージュは90歳。撮影から数年後には亡くなってしまったそうで、この映画の記録はとても貴重なものになってしまいました。

 この映画はビデオ上映なのですが、性器の局部アップにはモザイクが入ってます。女性が自分自身のセックスを語り、アーティストたちが自分の作品を紹介する映画なのに、そこにボカシを入れなくてはならない日本。女性が性表現のタブーと戦った歴史を描いた映画に、性表現の点で規制を加えなくてはならない日本。こういう現状を見ると、日本はまだまだ文化後進国だと感じます。僕は性表現の段階的な規制そのものに反対はしませんが、思慮分別も性知識も身に着けた大人に対して、性表現を規制しなければならない理由がどうしてもわからない。こういう映画がノーカットで見られるのはいつの日か?

(原題:EROTICA)


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