もういちど逢いたくて
星月童話

1999/03/01 SPE試写室
婚約者を失った女性が、香港で彼にそっくりの男と出会って恋に落ちる。
常盤貴子とレスリー・チャンが共演した香港映画。by K. Hattori


 『さらば、わが愛/覇王別姫』『君さえいれば/金枝玉葉』『ブエノスアイレス』などで知られる香港の人気俳優レスリー・チャンと、多くのテレビドラマに出演する常盤貴子が香港で共演したラブストーリー。常盤貴子が演じているのは、婚約者を事故で失った河村瞳という日本人女性。彼女は婚約者と暮らすはずだった香港をひとりで訪ね、そこで婚約者にうりふたつの男・石家寶(セッ・ガーボウ)に出会う。突然目の前から姿を消した婚約者の幻を追うように、瞳は家寶に惹かれて行く。婚約者と違って危険な香りのする家寶は、ギャング組織に潜入した警察の秘密捜査官だった……。監督は『ブラック・マスク/黒侠』のダニエル・リー。資料には香港映画と書いてあるが、製作は美亞電映製作と博報堂、メディアファクトリーの共同だから、実際には日本と香港の合作映画だろう。エグゼクティブ・プロデューサー、プロデューサー、脚本、音楽などにも、日本人スタッフの名前が見える。主題歌は森高千里。

 この映画は、正直言って面白くない。ヒロインの瞳は香港の青年実業家と婚約したのだが、自動車事故で彼が死んだことから玉の輿をふいにする。事故の原因は、彼が運転中に携帯電話を取ろうとしたこと。助手席に座っていた瞳は気が利かない女なので、彼が無理な姿勢で電話を取ろうとしていたのを無視し、対向車線から車が迫っていることにも気がつかなかった。僕はこの時点で、彼女に対する同情の気持ちが少しさめてしまった。

 瞳は常に自己中心的で身勝手です。恋人を失ったショックから必死に立ち直ろうとしているのはわかりますが、そのために彼女は家寶を振り回す。家寶を死んだ婚約者のかわりにして、果たせなかった約束を実現したいという願い。動機はわかる。同情の余地はある。エキセントリックな行動だとは思いますが、こういうキャラクターがあってもいい。でも、この映画では彼女の自己中心ぶりばかりが目立って、家寶が気の毒になってくる。彼女の好意は婚約者に向けられたもので、家寶はその写し絵にすぎない。本人の気持ちは無視されたまま、瞳にとって都合のいい男を演じさせられるのは、家寶にとって屈辱的なことではないだろうか。

 この映画はレスリー・チャン演じる犯罪捜査官が活躍するサスペンス・ミステリーとして作り、そこに常盤貴子演じる日本人女性がからんでくる構成にすべきだったと思う。舞台は香港に限定して、彼女の婚約者の死もずっと伏せておく。こうすれば、孤独な戦いを強いられている男の前に奇妙な女が現れて共に時間を過ごし、互いに別々の動機で心の渇きを癒して別れる話として展開できた。最後に彼女の心の傷を明らかにして、最後の最後はハッピーエンド。ただしこうすると、常盤貴子の登場シーンは極端に減ってくる。登場場面が減っても、印象的な役を作るべきだと僕は思うけど、タレント側はそうは思わないのだろう。常盤貴子が主演である限り、この話は絶対に中途半端になるんだけどね。

(原題:星月童話 Moonlight Express)


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