シン・レッド・ライン

1999/02/22 イマジカ第1試写室
伝説の映画監督テレンス・マリックの復帰作に僕はガッカリ。
とにかく物語が散漫すぎて盛り上がらない。by K. Hattori


 『バッドランズ』『天国の日々』のテレンス・マリック監督が、20年ぶりに作った長編劇場用映画。太平洋戦争の激戦地、ガダルカナル島での日米両軍の衝突を描いた戦争映画だ。この映画はつい先だって、ベルリン国際映画祭でグランプリにあたる金熊賞を受賞。アカデミー賞でもスピルバーグの『プライベート・ライアン』と一騎打ちになるのではと言われている。しかしこの映画、観た人の評判は「すごくいい!」という大絶賛と、「期待して損した!」というブーイングとに見事に二分されている。僕はどちらかというとブーイング派だ。

 映像的には確かに観るべき点がたくさんあるんだけど、劇映画としてはドラマの組立がずさんで、どの人物にもちっとも感情移入できない。そもそも、この映画の主人公はいったい誰なのか。タイトルに出る名前の順番やプレス資料では、ショーン・ペン扮するウェルシュ曹長が主人公のようにも思える。ところが映画は、ジム・カヴィーセル演ずるウィット二等兵のナレーションで始まるのだ。ではウィットが主人公なのか。違う。この映画の中では複数の登場人物が次々に心象風景やモノローグを披露し、しかもそれが物語の流れとはまったく無関係に存在するからたちが悪い。ついさっきまでベン・チャップリン演ずるベル二等兵が妻との思い出を反芻していたと思うと、次の瞬間にはニック・ノルティ演ずるドール中佐がどうやって出世しようか頭を悩ませている。こうして物語の語り手を次々に切り替える手法も悪くはないのですが、この映画ではその中心に共通する何かが存在しないから、映画全体がバラバラになっているのです。

 草が生い茂る丘の上を行軍する兵士たちの上を、雲の影が音もなく横切って行く場面。丘の上の草を、一陣の風が吹き抜けて行く様子。血みどろの戦闘のすぐ横で、木漏れ日が美しくきらめくシーン。戦争と大自然のコントラストが、この映画のテーマと言えばテーマでしょう。こうした映像については、確かに観るべきものがあると思う。でもここで描かれているテーマは、若い兵士が1匹の蝶を追って塹壕から身を乗り出したところを狙撃兵に射殺されるという映画『西部戦線異状なし』のラストシーンから、どれだけ進化してるのだろう。テーマとしては、ことさら目新しいものではないと思うぞ。ちなみにこの映画にも、兵士たちが戦闘をしている場所に1匹の蝶がひらひらと舞う場面がある。

 この映画の欠点は、風景描写が美しすぎること。美しいのは別に構わないけど、ここに描かれる風景はどこか涼しげなのです。うだるような熱帯の暑さが感じられないので、兵士たちが盛んに水の補給を気にする場面にも、まったく差し迫った脅威が感じられない。草原を渡る風もあくまで爽やか。これでは画面にいくら死体の山が出てきても、血生臭い戦場のにおいが感じられません。とにかく不満の多い映画です。戦争映画としても人間ドラマとしても、『プライベート・ライアン』の足下にも及びません。これがベルリンで金熊賞……。う〜む。

(原題:THE THIN RED LINE)


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