シューティング・スター

1999/02/16 TCC試写室
ギャングから麻薬を奪った男女の逃避行を描くフランス映画。
ゲスト出演のエロディス・ブーシェが最高!by K. Hattori


 タランティーノの映画をフランス流に翻案したら、たぶんこんな映画になるのでしょう。女をだまし、ギャングたちを煙に巻いて、無一文から大金を手に入れた天涯孤独の青年レニー。しかしそこは、ギャングたちの方が一枚も二枚もうわ手。レニーはギャングから巻き上げた金を奪い返され、再び無一文になってしまう。しかしそんなレニーの姿が、ギャングの情婦ジュリエットのハートに火をつけた。彼女はギャングから大量の麻薬を盗み出し、それを売りさばいて南米に高飛びしようとする。こうしてレニーとジュリエットの、奇妙なコンビが誕生した。恋愛感情? そんなものは後からついてくる。

 グラハム・ギットという若い監督のデビュー作ですが、配役は豪華だし、映画のテンポもいい。レニー役のメルヴィル・プポー、ジュリエット役のロマーヌ・ボーランジェ、ふたりを追うギャング、ジョエル役のジャン=フィリップ・エコフェは粒ぞろい。さらに『青春シンドローム』『いちばん美しい年令』『天使が見た夢』などに出演しているエロディ・ブーシェが、一人二役で印象的な役を演じているのも笑ってしまった。最初は麻薬の売人役でいきなり射殺され、2度目はジョエルに愛を伝える使者のような役。この若い女優、ただ者じゃないぞ。

 物語はレニー、ジュリエット、ジョエルの三角関係が軸になるはずなのですが、このあたりは話の組立が悪くて、うまく三角関係が浮かび上がってこない。なにしろレニーとジュリエットの関係が、そもそもわかりずらい。ジュリエットという女は、いったい何者なんだろう。彼女はなぜジョエルとつき合い、急に彼のもとを飛び出そうとしたんだろう。このあたりの動機付けが弱いので、その後のレニーとの関係があやふやになってしまう。また映画冒頭でヒッピー強盗に見逃される赤ん坊と、その直後のシーンで登場するレニーが同一人物だという具体的な説明も一切ないので、むしろジョエルがこの時の強盗のひとりだったのではと思えるほどだ。

 キャラクターそれぞれや演出にとぼけた味があって、それがこの映画の面白さになっている。ジョエルが「俺は女に優しい男だ。セックスだって時間をかけてたっぷり愛撫してやる。短くとも1時間、平均で1時間半だ」と自慢したあと、画面をレニーとジュリエットの寝室に切り替えるシーンには笑ってしまった。車椅子のジャンキーが、突然立ち上がって……というシーンも、くだらなくて面白い。この映画は全編が、拍子抜けするようなバカっぽさに満ちている。

 グラハム・ギット監督は、タランティーノよりむしろコーエン兄弟の映画に影響を受けているそうです。2作目の『キッドナッパー』も既に日本公開が決まっているそうなので、僕はすごく楽しみにしている。メルヴィル・プポーとエロディ・ブーシェも出演するらしい。フランスのアクション・コメディに、また新しい注目株が加わった感じです。最近のフランス映画は、本当に面白い映画が多いです。(ダメなのも多いけどね。)

(原題:Le Ciel Est A Nous)


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