タンゴ

1999/02/15 シアターコクーン
舞台演出家と若いダンサーの恋を軸にタンゴの魅力を描く。
スペインの巨匠カルロス・サウラの最新作。by K. Hattori


 先日発表されたアカデミー賞の外国語映画部門にもノミネートされている、スペインの巨匠カルロス・サウラの最新作。じつは僕、この監督の作品を観るのは今回が初めてだったのですが、全編にみなぎるミュージカル・テイストにすっかりいい気持ちになってしまいました。タイトルからもわかるとおり、これはタンゴを扱った話ですが、ミュージカル・ショーの演出家と若いダンサーの恋物語という、トーキー初期から現在に至るまで、どう少なく見積もっても数十回は作られた物語を、臆面もなく再現してくれる様子が嬉しかった。

 演出家が若いダンサーを大抜擢してショーの主役にするという展開は『四十二番街』。主人公が恋人だったダンサーのかわりに、若いダンサーを抜擢し、猛特訓している内に恋仲になるという展開は『イースター・パレード』です。ショーの演出がどう考えてもステージのサイズに収まりきらないのに、スクリーン上でそれを難なく演じさせてしまうのはバズビー・バークレー。大勢のダンサーが幾何学的に配置されたまま踊るのも、やはりバークレーの影響でしょう。演出家が出資者たちと対立し、どんどん自滅気味になっていくのは『オール・ザット・ジャズ』みたいです。特に『四十二番街』と『イースター・パレード』の影響は顕著。ちなみに同じようにタンゴを扱ったサリー・ポッターの『タンゴ・レッスン』も、物語の下敷きは『イースター・パレード』でした。このあたりの映画って、やっぱりミュージカルものの基本中の基本ですね。扇風機は『雨に唄えば』だし。

 物語のほとんどが、ショーのリハーサルをしている稽古場で進行します。主人公である舞台演出家は、稽古場の中にベッドを持ち込んで寝泊まりしている。それとまったく同じ空間の中で、オーディションが行われ、ショーのプランが練られ、レッスンが行われ、リハーサルが行われ、演出家は完成した舞台を夢想し、タンゴの調べにあわせてイメージが渦巻き、若いダンサーとの恋が芽生え、夢とも現実ともつかない世界が出来上がる。

 物語は「ミュージカル・ショーを作る話」のはずなのに、映画の冒頭は「映画のシナリオを読む演出家の姿」から始まります。シナリオのタイトルは映画と同じ『タンゴ』。この映画は、映画『タンゴ』の中で、映画『タンゴ』を作っている演出家が描かれるという、合わせ鏡のような構成になっているのです。映画の中には撮影カメラが堂々と登場し、撮影中のカメラを別のカメラがとらえたり、撮影カメラが稽古場の鏡に映り込んだりしています。こうした演出が何を意図したものなのか、僕にはちょっとわからなかった。ただ、こうした演出がないと、この映画は「往年のミュージカル映画の焼き直し」という評価でとどまってしまう。スクリーンの上の映画と、映画の中で演じられている映画の二重構造が、この映画にある種の「批評性」を与えているのです。それが何を批評しているのか、僕にはさっぱりわかりませんが。

(原題:TANGO)


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