カルロス

1999/02/12 東映第2試写室
『共犯者』で東映の番線に進出したきうちかずひろのデビュー作。
続編の『共犯者』よりこちらが面白いと思う。by K. Hattori


 最新作『共犯者』が間もなく全国東映系で公開される、きうちかずひろ監督のデビュー作。『共犯者』と同じ日経ブラジル人カルロスが主人公の、バイオレンス映画です。Vシネマなので16ミリ・スタンダードでの上映。しかもこの試写室には映写機が1台しかないので、途中でフィルム交換のため休憩(?)が入るというものでした。僕は『共犯者』だけ観てもカルロスのキャラクターがよく理解できなかったので、本当ならこの『カルロス』を35ミリにブローアップして、『共犯者』の併映作品にすべきだと思っています。もっとも、それをやろうとするとひどく費用がかかるし、劇場での回転率も落ちるので、実際には不可能だと思いますが、35のプリントを数本用意して、せめて都市部の一部劇場だけでも、モーニングショー的に朝1回だけ回すような措置がとれなかったのだろうか。『共犯者』は『カルロス』あってこその映画ですが、あらかじめ『カルロス』だけをビデオで見てから劇場に来る人が、それほどたくさんいるとは思えない。かれこれ8年も前の作品なので、ビデオ屋にも在庫がないかもしれないしね……。

 原作はきうちかずひろ本人ですが、脚本は実兄であり、『代紋(エンブレム)TAKE 2』などで知られるマンガ原作者・木内一雄が書いています。やくざたちから便利屋のように使われている日系ブラジル人のギャングが、じつは国際指名手配を受けているブラジル暗黒街の大物だった……、というアイデアが面白いのですが、主人公カルロスのこうした二面性が、後半のどんでん返しにはならない中途半端さが残念。映画の冒頭で事務所に乗り込んだやくざ幹部を射殺する場面を伏せ、カルロスの凶暴な実力者ぶりをぼかしておいた方が、後半になって正体が明かされるくだりで凄味が出てきたような気もします。映画の中盤までは、あくまでも日本人やくざ同士の抗争話に外国人マフィアがからむ程度の話にしておいて、終盤で一気に「じつはすべての動きを支配していたのはカルロスだった」というオチにした方がよかったと思う。

 アクションシーンの演出は、村川透監督・松田優作主演の『蘇る金狼』や『野獣死すべし』にも通じる、情感を排した即物的なタッチです。細かい描写には紋切り型もありますが、チャック・ウィルソン演じる殺し屋との対決などは迫力十分。知人のマンションでカルロスの弟とウィルソンが対決し、そこに駆けつけたカルロスが、マンションの長い廊下をひた走りに逃げる場面はすごかった。逃げ場のない廊下を、ひたすら真っ直ぐ逃げて行き、あわや射殺されるかというときに……、というタイミングが絶妙。その後、警察が厳重に警備している組事務所に乗り込む場面や、「日本人をなめるな!」と日本刀を振りかざす大木実をショットガンで吹き飛ばす場面などにも、一種の爽快感がありました。

 不満な点もいろいろありますが、僕は『共犯者』より『カルロス』の方が面白いと思いました。きうち監督については、ちょっとチェックしておこうと思います。


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