天地無用!in LOVE 2
遥かなる想い

1999/02/12 GAGA試写室
一部に熱心なファンがいるらしい人気アニメ・シリーズの完結編。
パラレル・ワールドSFを借りた「牡丹灯籠」。by K. Hattori


 OVAからはじまった人気シリーズ『天地無用!』の、劇場版第3弾にして完結編。僕はこのシリーズをビデオでもテレビでも見てなくて、唯一観たのが一昨年公開された劇場第2弾『天地無用!真夏のイヴ』だけというありさま。物語の設定がぜんぜんわかっていなくても、前回の映画では感激して泣いてしまった。今回の映画も、なかなか見応えがありました。今回は泣きはしなかったけど、涙がジワリとあふれてくる場面はあった。このシリーズは、毎回なかなかレベルが高いドラマを見せてくれる。時間があれば、レンタルで劇場1作目も借りて来るんですけどね……。残念ながらそのが暇ない。そもそもビデオとテレビモニターで見ると、作品の印象もだいぶ違ってくると思うんだよね。

 前作でも感じたことだけど、このシリーズの主人公・柾木天地は、優柔不断で物語の中でも影の薄い少年なのに、じつは樹雷星の皇子で、どういうわけか女の子にモテモテというありがたい身分。今回の映画でも、彼は天下一品の優柔不断ぶりを発揮。ひたすら状況に流されて自分を見失う彼を助け出そうとするのは、彼を慕う少女たちや、しっかり者の祖父・遥照なのです。

 今回の物語は、パラレルワールドSFと「牡丹灯籠」をミックスしたような、切ないラブストーリーになってます。遥照が樹雷星を出奔するきっかけとなった美しい女性ハルナの魂が、遥照の孫である天地を自分の作り出した世界に引き込んでしまう。突然姿を消した天地を追って、魎呼と阿重霞がパラレルワールドに踏み込んで行く。現実世界とパラレルワールドが二重露光の写真のように交錯する様子は、フィリップ・K・ディックの小説や『うる星やつら2/ビューティフル・ドリーマー』を連想させます。ハルナの作り出した世界が、東京・月島の路地を思わせるノスタルジックな風景になっているところなど、作画スタッフたちのこだわりが光ります。現実世界はいわゆる「アニメ絵」で描き、ハルナの世界は『PERFECT BLUE』のようなリアルな絵として描き分けている。これによって、ハルナの作り出した世界が、現実以上に生々しく感じられるのです。

 強く誓い合った「永遠の愛」が死によって断ち切られた後、それでも消えない思慕の念が現実の形となって現れる。愛の言葉に嘘偽りがなかったとしても、残された人間は残りの人生を生きていかなければならない。遥照がハルナの亡骸の上に飢えた椿の木を切り裂くシーンは、自分たちが生きるために、死者との思い出を時には傷つけなければならないという残酷さを象徴的に表している。生きるということは、きれい事だけでは済まされない。ハルナの想いを受け止めきれなかった天地も、一連の出来事の中でそれを学び、大きく成長するのです。

 前作までは東映配給で全国公開された映画ですが、今回はGAGA配給で単館系ロードショー。大胆なラブシーンがあるなど、やや大人向けの内容なのです。地方の人は、ビデオ発売を楽しみに待つように。


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