故郷
(ふるさと)

1999/01/29 東映第1試写室
沖縄のおばあちゃんが北海道までマラソンで旅をする。
向井寛監督と淡島千景のコンビ作第2弾。by K. Hattori


 一昨年『GOING WEST 西へ…』を作った向井寛監督と主演の淡島千景が再びコンビを組んで、76歳のおばあちゃんが沖縄から北海道までマラソンで旅をするロードムービーを作った。前回の映画もかなりデタラメな作品でしたが、今回もそれに負けず劣らずデタラメな映画で、内容も退屈この上なし。僕は前作を見ているので「やはりこんなものか」と思っただけですが、試写を観ていた他の人の顔には、少なからず困惑の表情が見て取れた。

 沖縄で市民マラソンの常連として有名なおばあちゃん南風原時子は、マラソン仲間のひとりが急死したのをきっかけに、かねて仲間と「日本中の景色を見ながら走りたい」と話していたプランを実行するため沖縄を離れた。彼女の動きを察知した地元のテレビ局は、若いディレクターの本田を彼女に張り付け、旅の全貌を特別番組として全国に放送する。放送を通じて、時子ばあちゃんの人気はうなぎ登り。どの土地に行っても大歓迎を受け、地域のマラソン愛好者たちを伴走に付けながら、旅は九州から本州、そして北海道へと続いて行く……。

 映画に出資したスポンサーへの配慮ばかりがやけに目に付き、主人公と沖縄の友人が携帯端末を使って電子メールのやりとりをしたり、主人公がお芋のジュースを飲んで感心して見せたり、テレビ電話が突然登場するなど、その露骨な商品紹介ぶりは『トゥルーマン・ショー』状態。体力のない年寄りが渾身の力をしぼって走っているというのに、各地の名所旧跡を必ず通ってコースは蛇行・寄り道を重ね、宿泊したホテルの全景ショットが必ず入り、協力してくれた商店会やエキストラが全員映る場面を作るなど、徹底したタイアップを隠そうとしない演出には、逆に頭が下がってしまった。前作同様、脚本や演出のアラが目立つ作品ですが、こうしたスポンサーへのサービス過剰ぶりがスカスカな物語を埋め合わせて、映画に一定の密度を生み出しているのは皮肉です。

 『GOING WEST 西へ…』でも、主人公が旅に出る動機付けの弱さが目立ちましたが、この映画でもそれはまったく同じ。マラソンで日本を縦断するとなれば、それなりの入念な準備が必要なはずなのに、それが一切ないまま突然旅に出てしまう時子にあきれます。マラソンで旅をするにあたって、お金や着替えや荷物などをどうやって運ぶのかも、まったく考慮されていません。旅を続ける中で、少しずつ疲労がたまっていく描写もなし。時子は家の近所をジョギングするのと同じペースで、日本を走り抜けて行くのです。パンフレットにある監督の弁に寄れば、これは約半年に渡る物語だと言いますが、映画にはその時間経過がまったく見えてこない。3週間ぐらいで全行程を走破したように見えてしまいます。

 ロード・ムービーに不可欠な「登場人物の成長や変化」がまったく見られないし、豪華な脇役陣が登場してはすぐ消えてしまうのも気になる。旅の苦楽をともにしたディレクター本田との関係も、最後の最後までよそよそしい。物語としては、出来損ないもいいところです。


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