奇蹟の輝き

1999/01/21 有楽町朝日ホール
事故で死んだロビン・ウィリアムスが天国と地獄を旅する。
最新CGを駆使して描く現代版「神曲」。by K. Hattori


 ロビン・ウィリアムス、キューバ・グッティング・ジュニア、アナベラ・シオラ、マックス・フォン・シドーなどの豪華な配役で描く現代版「神曲」。リチャード・マシスンの原作を『ベスト・フレンズ・ウェディング』のロン・バスが脚色し、『心の地図』のヴィンセント・ウォードが監督している。タイプとしては『ゴースト/ニューヨークの幻』に近い映画として売るつもりなのでしょうが、はっきり言って「登場人物が全員死人」というのは異様です。むしろ『丹波哲郎の大霊界/死んだらどうなる』の洋画版みたいにも感じるぞ。

 ヨーロッパ旅行中に出会ったアニーと電撃結婚し、幸せな結婚生活を送るクリス・ニールセンは、ふたりの子供を一度に事故で失ってしまう。悲しみを乗り越えて夫婦ふたりの生活に新たな幸せを見いだそうとしていた矢先、今度はクリス自身が事故でこの世を去ってしまう。愛するアニーに別れを告げ、クリスが足を踏み入れたのは、頭に思い描いただけで何でも現実になる「天国」だった。だが地上では、人生に絶望したアニーが死を選ぼうとしていた。自殺した人間は地獄に堕ちる。クリスはアニーを救おうとするのだが……。

 この映画の見どころは、最新技術を駆使して描き出される「天国」と「地獄」の映像。幻想的な絵がそのまま立体化したようなビジュアル・イメージの連続は、なかなか見応えがある。でも登場人物が全員死んでいる人なので、僕は主人公以下どの人物にも、感情移入はできなかった。『ゴースト/ニューヨークの幻』は、生きている人と死んでいる人の交流が感動を生んでいた。生きている人を通じて、我々は死んでしまった人の意志をくみ取り、泣いたり笑ったりできた。でも『奇蹟の輝き』では登場人物が全員「あちら」の人なので、我々は彼らの喜びや悲しみを身近なものとして感じることができない。子供が事故で死に、夫も死に、妻も自殺し、それでもみんな「天国で仲良く幸せに暮らしましたとさ」という話を、真面目に受け止める人がどれだけいるんだろうか。

 この映画の天国や地獄には、神様もいなければ天使もいない。これが中世の詩人ダンテの描いた「神曲」との、大きな違いです。この映画では天国も地獄も、そこにいる人間の意識が作り出す物だとされている。このへんが「神なき時代の死生観」を見るようで面白かった。なお死後の魂が輪廻転生するエピソードが描かれていますが、輪廻転生はキリスト教にない考えです。この映画で描かれている死後の世界には、ニューエイジ系のエッセンスが少し入っている。それもまた、現代アメリカ人の魂のありようを示しているようで面白い。

 映画が最後に打ち出すのは、生きることの素晴らしさです。現世に生きることを苦役と考える古典的な宗教とはまったく異なる考えが、この映画には流れている。天国より、現実の世界で傷つきながら生きて行く方が素晴らしいという、いかにもアメリカ人好みの結論だと思います。ラストシーンでは、不覚にも感動してしまったぞ。

(原題:What Dreams May Come)


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