死国

1999/01/14 東宝第1試写室
坂東眞砂子の同名小説を、長崎俊一が監督したホラー映画。
諸星大二郎の「妖怪ハンター」風の面白さ。by K. Hattori


 『リング2』と同時に上映される「角川冬のホラー第3弾」だそうです。たぶん『パラサイト・イヴ』『リング』『死国』という順なんでしょうね。去年の『リング』があまりにも凄かったので、その前の『パラサイト・イヴ』は何となく存在がかすむ。今年の2本立てはどうでしょう。原作は坂東眞砂子の同名小説で、監督は『ドッグス』の公開も控えている長崎俊一。十数年ぶりに故郷の四国に帰った女性が、10年前に死んだ幼なじみを巡る、奇妙で恐ろしい出来事を体験する話です。

 主人公の比奈子は四国の中心部に位置する高知県・矢狗村で生まれ育ち、小学校時代に東京に引っ越している。15年ぶりに故郷に帰ってみると、幼なじみの莎代里は高校生の時に川の事故で死んでいた。莎代里の父は、崖から転落して意識不明のまま入院中。母親は四国八十八霊場をお遍路で回っていて留守だという。だが、比奈子は留守のはずの莎代里の家で、確かに人の気配を感じていた。比奈子は村には行って以来、ずっと誰かに観られているような気がする……。それだけではない。村では奇妙な出来事が、次々に起こっていた。比奈子は幼なじみの文也と共に、莎代里の家に代々伝わる秘密の儀式について調べ始める。やがて明らかになる、四国霊場巡りと「四国=死国」の秘密と謎の洞窟。やがてふたりの前に、死んだはずの莎代里が姿を現した。

 恐いのは確かに恐い。でも、映画としての完成度は低いと思う。その原因の大部分は、不明確な人物の設定にある。主役級の登場人物は、比奈子、文也、そして莎代里の3人。観客を不思議な世界に案内する比奈子はともかくとして、文也と莎代里のキャラクター造形には、もう少し工夫が欲しい。莎代里は現世に未練を残して死に、逆打ち(さかうち)という秘密の儀式で黄泉の国からよみがえる強い女。幼なじみの比奈子に激しいライバル意識を燃やし、恋人の文也に強い執着を示す女だ。対して文也は、そんな莎代里の愛情に息苦しさを感じながらも、その愛情に溺れていく弱い男。生命力の強い女が事故で死に、生命力の弱い男が生きながらえているという関係が、事件を通して明らかになるとよかったと思う。

 この映画では、少年時代の文也を腕白坊主として描いているが、もっと線の細い、インテリで都会的な匂いのする虚弱児タイプの方がよかったのではないだろうか。その方が、謎の究明にあたって文也がリーダーシップを取るくだりが自然になるし、代々続く巫女の家系として土地に縛り付けられている莎代里が、文也に惹かれる理由もすんなりと納得できると思う。

 こうした欠点はあるものの、映画の恐怖描写はなかなかのもの。四国八十八ヶ所巡りが、じつは黄泉の国を封じ込める結界を作るためのものだというアイデアは面白いし、現代日本に古代から残る暗闇がポッカリと口を開ける恐さも伝わってくる。諸星大二郎の「妖怪ハンター」シリーズにも通じる、民族学ホラーのひとつとして、それなりに面白くできている映画だと思う。


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