ジギー・スターダスト

1999/01/13 映画美学校試写室
グラム・ロックに終止符を打ったデビッド・ボウイの伝説的ライブ。
『ベルベット・ゴールドマイン』の前に観たかった!by K. Hattori


 『ベルベット・ゴールドマイン』のモデルにもなった、デビッド・ボウイの伝説的ステージを記録したドキュメンタリー。1973年7月3日、ツアー最終開催地となったロンドンのハマー・スミス・オデオン劇場で、デビッド・ボウイは衝撃的な引退宣言をした。だがそれは、歌手デビッド・ボウイの引退ではなく、彼の作り出したキャラクター、ジギー・スターダストの引退に過ぎなかった。ボウイがその後も活動を続け、現在もなおロック界のカリスマ、存在感のある渋い俳優として活躍していることはご存じの通り。しかし当時のファンは、ボウイの「引退宣言」を文字通りに受け取って悲観に暮れた。トッド・ヘインズはこの「事件」にインスピレーションを受けて、グラム・ロックのスーパースター、ブライアン・スレイドの狂言自殺というエピソードを作ったのだ。

 僕は音楽の世界に疎いし、そもそもあまり興味もないので、グラム・ロックの何たるかも知らないし、デビッド・ボウイがかつてどのような活動をしていたのかもまったく知らない。僕が知っているボウイは、音楽で言えばせいぜい「チャイナ・ガール」以降だし、映画で言うと『ハンガー』以降。そんなわけで、配給会社のケイブルホーグが「A Series of Cult Classics」と銘打って、ボウイ主演の映画『地球に落ちて来た男』やドキュメンタリー映画『ジギー・スターダスト』をニュープリント上映してくれるのはすごく新鮮だし、ありがたいことだと思う。言ってみれば、僕はこうした映画を通じて「デビッド・ボウイを再発見」しているわけです。『エブリバディ・ラブズ・サンシャイン』の渋い脇役俳優デビッド・ボウイに、『ジギー・スターダスト』で描かれたような華麗な過去があったことを再確認できただけでも、この映画を観た価値があるってものです。

 映画はライブ・パフォーマンスの記録なので、ボウイの音楽活動をまったく知らない僕が観ても、どこがどう凄いんだかまったくわからない。同時代のロックをリアルタイムに体験した人や、昔の音楽に詳しい人が観れば「なるほど」「ほほ〜」という部分があるのかもしれないけど、僕はそうした知識が皆無なので感銘も受けなかった。むしろ面白いと感じたのは、ボウイの楽屋姿だったり、熱狂するファンの女の子たちの表情だったりします。バンドが演奏を続けている最中に楽屋に引っ込み、大急ぎで衣装を換えて、またステージに戻るボウイ。歌舞伎の早変わりのように、衣装を次々チェンジして行く場面もあって、紅白の小林幸子にも通じる「見せ物」としての面白さがいっぱいです。ちなみに、このステージの衣装担当のひとりは山本寛斎。歌舞伎風の演出や、漢字をプリントした衣装は、彼のアイデアかもしれません。

 強烈なストロボ光で照らし出される客席を、カメラが延々撮り続ける場面は、サイレント映画のようで面白い。でもこれって、ポケモンと同じで客がテンカンの発作を起こす可能性があるんじゃないかな。ロックコンサートで失神する客の何割かは、テンカンだったりして……。

(原題:Ziggy Stardust)


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