プライベート・ライアン

1998/12/25 みゆき座
物議をかもした戦争映画を、試写に続いて2度目の鑑賞。
スピルバーグの演出は余裕しゃくしゃく。by K. Hattori


 この映画は試写で観ているのだが、もう一度大画面で観たかったので足を運んだ。ストーリーは前回ですっかり頭に入っているので、今回は演出や撮影の細かな部分をチェックするのが目的だったのだが、映画の終盤ではまたしても話に引き込まれてしまった。やはりスピルバーグはうまい。一時の不調が嘘のような大監督ぶりだ。

 前回見落としたのは、機関銃陣地で命を助けられたドイツ兵と、ミラーに致命傷を与える兵士が同じだったこと。これは今回改めて観て、確かに同一人物であることを確認した。右眉にキズがあるのでそれとわかるが、これはすごくわかりにくい。演出ミスとまでは言わないが、もう少し明快な描き方がされていた方がよかったと思う。でないと、最後にアパムが彼を射殺するシーンが弱くなる。僕は前回観たとき、メリッシュと格闘して彼を刺し殺す屈強なドイツ兵と、アパムが最後に射殺するドイツ兵が同じなのかと思ってました……。これは別人。

 カパーゾが死んだ後、機関銃陣地に行軍する小隊の人数が8人のままになっているという部分は、小隊がライアン捜索に出発する場面で、羊の群とすれ違うカットの別テイクのようです。これは編集段階で他に挿入するカットがなかったため、前のカットを流用してしまったのでしょう。デジタル処理で兵士をひとり消すぐらいわけないことだと思うのですが、ここでは「まず気づくまい」と判断してそのまま使い回している。あるいは、隊列の中からカパーゾだけを消すと、兵士の並びが不自然になると判断したのかもしれない……。これは当然、スピルバーグも気づいているはずですから、ビデオ化されたときに直してしまうかもしれません。

 最後の決戦前に、ミラーがカフェでいじくり回している機械は、ビールのタンクではなくてコーヒーマシンでした。ミラーがコーヒーを注ごうとしているのはミルクを入れるポットですし、機械のすぐ側に挽いたコーヒー豆を入れる部品が転がっています。

 観る者の度肝を抜く、映画冒頭のオマハビーチ上陸戦ですが、このシーンはじつに安上がりにできてます。カットが次々に切り替わるので、広いビーチ全体で戦闘を行っているように見えますが、ひとつひとつのカットは、カメラに写る範囲ギリギリに人物を配置して撮影されているようです。カットごとに観ていくと、特別にものすごい撮影テクニックを使っているわけではないのですが、編集のテンポが抜群なので、最終的には大迫力の戦闘シーンになっている。もちろん、これはそうした編集を見越して現場で撮影プランを作っているわけですから、最終的には監督が偉かったということになる。戦場の大俯瞰を避けて、ひたすら地面スレスレに這い回る兵士の視線でカメラを回したことが、このシーンの迫力とコスト削減に役立っているのです。

 この映画にはありとあらゆる演出テクニックが盛り込まれているので、これから映画を作ろうとする若い人は、繰り返し観て研究した方がいいと思う。

(原題:Saving Private Ryan)


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