平成金融道
裁き人

1998/12/08 東映第2試写室
中小企業を倒産から救う経営コンサルタントがパクリ屋と戦う。
面白いのでぜひシリーズ化してほしい。by K. Hattori


 経済企画庁が8日に発表した月例経済報告には、日本の景気に「変化の胎動も感じられる」と記載されたらしい。僕はフリーで仕事をしていて、ライターとしては駆け出しのペーペーなので、仕事も収入ももともと少なくて、あまり景気とは関係ないんですけどね。でも新聞を見る限り、世の中はやはり不況の真っ盛り(?)らしい。

 そんな「大不況日本」を背景にしたこの映画の主人公は、不況で経営が行き詰まった会社経営者に上手な倒産の仕方を伝授したり、会社の再建方法を指南する経営コンサルタント。映画はいきなり会社に破産が適応され「おめでとう、これで心機一転再出発です!」とクライアントと握手する主人公の姿から始まるので、僕はてっきり法人版『夜逃げ屋本舗』のような映画になるのかと思った。ところがこの映画は、「困ったら逃げればいい」と安直な解決策を示しているのではない。会社経営者は、従業員と家族、取引先のために、できる限りの努力をするべきだ。でも万策つきて行き場を失ったとき、首をくくるよりは潔く倒産でも夜逃げでもした方がいい。そんなメッセージが、この映画からは伝わってきます。

 主人公は経営コンサルタント会社、東京カウンセラント・オフィスの女社長・立花亜希子。彼女は倒産を目前にしたクライアントたちに対し、「倒産回避の方法は4つ、倒産させる方法は2つあります。選ぶのはあくまでも社長ご自身です」と切り出すのが口癖。彼女の父親も事業に失敗したことがあるせいか、彼女の中小企業を見る目は優しい。事務所の若い弁護士・五十嵐は、会社を倒産させたり、債権者を煙に巻いたり、時には経営者夫婦を離婚させて別々に夜逃げまでさせる彼女のやりかたに疑問を持たないでもないが、税理士の末永は亜希子が何とかして中小企業を救いたいという気持ちに嘘がないことを見抜いている。口では「ビジネスよ」と言う亜希子だが、彼女はそれほどドライではないのだ。

 主人公の亜希子を演じているのは夏樹陽子。監督は『借金王〈シャッキング〉』でも彼女と組んでいる和泉聖治。『借金王』は悪党から大金をパクリ取るピカレスク劇だが、この『平成金融道』は攻撃と守備を完全に入れ替え、パクリからクライアントを守ろうとする側が主人公だ。物語のスケールや映画の規模はいかにも「ビデオ向け映画」なのだが、法律を逆手にとってクライアントを助けようと奔走する主人公たちの姿は痛快だし、パクリ集団と被害者の駆け引きも面白い。映画にはところどころに「なぜこうなる?」という部分があるのだが、物語のテンポがいいのであまり気にならない。

 なべおさみがパクリの被害にあうホテル社長を演じているのだが、人が良くて、小心で、ちょっと好色で、責められると意固地になる小人物として、これほどぴったりのキャスティングはない。若い弁護士役の大鶴義丹は演技がやや固いが、税理士役の仲谷昇はうまい。立花の幼なじみであるヤクザ幹部を演じているのは、覚醒剤事件で本当にムショ帰りの清水健太郎。ちょっと太ったな。


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