マラリア

1998/11/04 ル・シネマ2
東京国際映画祭/コンペティション
愛は人を強くする。幸福にする。孤独にする。そして狂わせる。
孤島の村で煮詰まって行く男女の愛情。by K. Hattori


 『マラリア』というのは、この映画に登場するヒロインの名前。僕はてっきり病気の名前かと思ってしまいましたが、病名の「マラリア」は綴りが「Malaria」で、 この映画のタイトルは「Mararia」だから1文字違う。 劇中ではマラリアのことを「マリア」とも呼んでいました。「マラリア」とは「マリア」の異名なのだろうか。

 この映画はスペイン領の小さな島ランサロテを舞台に、島を訪れた若い医者フェルミンと、島の娘マラリア、後から島にやってきたイギリス人地質学者ベルトランの3人が繰り広げる、狂おしいまでの愛憎関係を描いた作品だ。孤児マラリアは、いつか素敵な男が目の前に現われ、自分を島の外に連れ出してくれることを願っている。島にやってきたフェルミンは彼女にとって願ってもない男だったが、彼は島民たちとの軋轢を恐れてか、彼女にはなかなか近付こうとしない。やがて地質調査のために島を訪れたベルトランが、マラリアと恋に落ちる。彼女を秘かに愛するようになっていたフェルミンは静かに身を引こうとするのだが、ベルトランが妊娠したマラリアを捨てようとしていることを知るや、発作的に彼を殺してしまう。死体も完全に隠した完全犯罪。だがマラリアは、行方不明のベルトランをいつまでも待ち続ける……。

 愛が人を狂気に駆り立てる様子を描き、登場人物3人のうち、ふたりが死んでしまうという不幸な映画です。いかし、映画の後味は意外にスッキリとした爽やかさ。このテーマだと、男女関係のドロドロした部分を表に出してきそうですが、この映画ではそうしたドロドロを一切排除し、抽象的で神話的な世界を作り出すことに成功しています。ランサロテ島の自然も、神話的イメージを増幅することにずいぶんと役立っている。草木の生えない火山灰質の風景が、「不毛」ではなく、「清潔」な印象で描かれているような気がします。「愛は人を豊かにし幸福を呼ぶ」と単純に考えている人にとって、この映画はショッキングかもしれません。でも、男女の愛というのは利己的で独善的なものです。どんなに取り繕っても、内部には熱狂の根が眠っている。そんな愛情の姿が、静まり返った死の島に見えて、内部は煮えたぎっているランサロテ島によって象徴されています。

 愛は人を強靱にします。ベルトランを失ったマラリアは、自分と恋人の愛を信じることで強く生きて行くことができる。同時に愛は人を孤独にします。もしフェルミンがマラリアを愛することがなかったら、彼はあの絶望的な孤独を感じることがあったでしょうか。

 面白い映画ですが、序盤でヒロインのマラリアが登場するくだりが、ややボンヤリとした印象。これだけの物語を支える女主人公なのだから、登場した途端、観客全員が彼女の魅力にノックダウンされるようなインパクトがほしい。フェルミンやベルトランなど、彼女以外の人物については大満足なのに、タイトルにもなっているヒロインが弱いのは困った。これはキャスティングの問題と言うより、見せ方の演出が悪いんだと思います。

(原題:Mararia)


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