ザ・デュオ

1998/11/02 渋谷エルミタージュ
東京国際映画祭/シネマプリズム
『ボンベイ』のマニラトナム監督が描く、映画と政治の密接な関係。
ふたりの主人公の友情と別離を描く大河ドラマ。by K. Hattori


 日本でも今年『ボンベイ』が封切られた、マニラトナム監督の政治映画。映画スターを夢見る若者アーナンダと新鋭作家セルヴァムが出会い、片方は映画の世界で大成功、片方は政治の世界で頭角を現す。映画スターとなったアーナンダは大衆の支持を集めるために、政治の世界にも接触。セルヴァムも彼を公告塔として利用しようとする。ふたりはそんな利害をこえたは固い友情で結ばれてゆくが、作家が首相になった頃から反目しあい、やがて決別する。まもなく映画スターは正解に進出し、かつての親友同士は政敵として争いあうようになる。

 長い映画なので本来は前後編に分かれているのだが、映画祭では全編通しての上映。前編ではセルヴァムの首相就任までを描き、後半では主人公ふたりの決別と永遠の別れが描かれる。前編は男たちのサクセスストーリー。後半は人生の苦い一面を描きだしている。楽しいのは当然前半だが、後半の重厚な人間ドラマも魅力がある。1本の映画で、2本の異なる映画を観ている印象だ。

 インド映画といえばミュージカル場面を期待してしまうが、この映画は映画製作の裏側を描いた部分が全体の半分を占めるので、歌と踊りは劇中劇として演じられているものが多いし、それが大きな見所になっている。映画のテーマが「男同士の友情」と「政治」なので、芝居の中で歌われる歌にはラブソングが少ない。「タミルはひとつ」とか「選挙では我が党に投票を」と歌われても、あまりワクワクしてこない。これは残念だった。

 青年アーナンダが、映画界入りを目指して地味な訓練を続ける場面や、端役のオーディションに群がる無名の俳優たちの中から、何とか抜け出そうとする序盤が面白い。やがてつかんだ主演映画のチャンスが、もろくも崩れてしまう場面にも同情してしまいます。主役ふたりが政治家になるまでを描いた前半は、社会的にも経済的にも上向きになってゆく部分なので、観ていても単純に面白い。貧しい境遇から身を興すため、俳優の道を突き進んでゆくアーナンダと、裕福な家庭に生まれたインテリのセルヴァムの対比もよく描けています。年配の俳優が青年時代から晩年までを演じているため、アクション俳優を演じているアーナンダにスピード感が欠けているという欠点もありますが、演じている役者の太った体も、スター俳優になって以降は貫禄に見えてくる。

 この映画最大の欠点は、主人公の妻や愛人たちなど、脇で物語を支える女性たちの描き方が足りないことだ。特に問題なのはアーナンダの最初の妻の描き方。この夫婦の愛情関係が描き切れていないため、後半の愛人とのエピソードがまったく生きてこない。夫婦の中が睦まじい様子は繰り返されるラブシーンでよくわかるのだが、セックスの回数が愛情の深さの証明だとは思えない。これに比べると「女性とは対等な関係でいたい」ときれい事を言いながら、外にしっかり愛人を囲っているセルヴァムの方が人間的な面がよく描けていると思う。言動の不一致という矛盾こそが、人間らしさの証明です。

(原題:Iruvar)


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