りんご

1998/11/02 ル・シネマ2
東京国際映画祭/コンペティション
イランから登場した史上最年少18歳の女性監督がコンペに出品。
実話をもとにしたドキュメンタリー風のドラマ。by K. Hattori


 作品の内容以前に、18歳という年齢が話題になっているイランのサミラ・マフマルバフ監督には、「女性監督」というより「少女監督」という表現が似つかわしいかもしれない。父親はイランの有名な映画監督モフセン・マフマルバフで、今回は娘の映画のために脚本と編集を担当している。『りんご』はコンペ部門の正式出品作品だが、父モフセンが監督し、娘サミラが助監督を勉めた『沈黙』も、今回の映画祭ではシネマプリズムのクロージング作品になっている。父と娘が映画監督になる例もまれだが、父娘そろって同じ映画祭に作品が出品される例は、ものすごくまれな例だと思う。サミラ監督のデビューに関しては、口さがない人たちから「本当は父親が監督したのでは?」と言われそうですが、彼女は父の映画の出演者として8歳で映画界入りし、その後映画学校で映画製作の仕事を正式に学び、2本の短編映画を監督したキャリアの持ち主です。まさに監督になるべくして監督になった人と言えるでしょう。

 両親の手で12歳になるまで家のなかに閉じこめられていた双子の姉妹が、福祉局の手で家から出され、少しずつ社会に触れてゆく話です。これは子供が社会の中で成長してゆく物語であり、同時に、両親が子供によって育てられてゆく物語でもあるのです。じつはこの物語は、実話をもとにしています。テレビニュースで親子の話を知った監督は、ビデオカメラを持って親子のもとを直撃取材。その後、両親が子供を閉じこめておかざるをえなかった事情なども取材したうえで、モデルとなった家族を出演者に仕立てて劇映画を作りはじめた。この映画に出演している父親も双子の姉妹も、すべて本人だそうです。といって、この映画がすべて実話の通りというわけでもない。これはノンフィクションに限りなく近い、純然たるフィクションなのです。

 主役は双子の姉妹を含む子供たちです。アイスクリーム売りの少年、リンゴで少女たちをからかう男の子、そして公園で姉妹と友達になる女の子たち。こうした子供たちの表情が、じつに生き生きとしているのが印象的です。主役の双子を含め、ほとんどは素人だと思うのですが、いったいどうやってこれらの表情を引き出したのか、
たいした演出術です。公園の少女たちと出会った姉妹が、りんごで相手を殴ってはすぐに仲直りすることを繰り返す場面は、どうしたって笑ってしまいます。

 子供を家に閉じこめて外に出さないのは、一種の児童虐待でしょう。でもこの映画は、そんな両親を悪者にしていない。目の不自由な母親が子供を連れて外出できず、父も仕事や何かで子供の相手ができないまま、娘は学校に行く年にまで成長してしまう。「子供は親の手元で成長するもの」という考えが、この親子を縛り付けているのです。でも、ある程度成長した子供は、親がいないところでスクスク成長してゆくものです。たった1日の外出で、姉妹の様子がガラリと変わるのがすごい。子供が変わったとき、それを見た親も変わるのです。

(原題:La Pomme / Sib)


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