ロンゲストナイト

1998/10/23 ユニジャパン試写室
トニー・レオン扮する悪徳刑事が、ラウ・チンワンの罠にはまる。
監督は『パラダイス』のパトリック・ヤウ。by K. Hattori


 黒社会の勢力バランスが拮抗しているおかげで、かろうじて平和が保たれてきたマカオ。しかし新興グループの台頭で、このバランスも崩れ去ろうとしていた。勢力を二分するリーダー、ケイとジョージは和解によって血なまぐさい抗争に終止符を打とうとするが、長老ホンはこの機に乗じて自分の勢力を一気に伸ばそうと画策する。そんな中で、トニー・レオン扮する刑事は、知らず知らずの内にギャングたちの抗争に巻き込まれて行く……。

 悪徳刑事がギャングの世界にどっぷり身を浸し、最後は破滅するという暗〜い映画。雰囲気としては、ゲイリー・オールドマン扮する汚職刑事を主人公にした『蜘蛛女』に似ている。もっとも、この映画で主人公を翻弄するのは、危険な美しさを漂わせたレナ・オリンではなく、ジャガイモのような野暮ったさを感じさせるヒゲ面の男ラウ・チンワン。『蜘蛛女』のオールドマンが、プライベートで愛人や家族を背負っていたのに比べると、この映画のトニー・レオンは背景に何もない分だけ物語が薄くなる。オールドマンが自らの行為の代償として愛人と妻を失ったのに、トニー・レオンは何も失うものがない。結局彼は、自らの命ですべてを贖うしかない。

 トニー・レオンはこの映画で唯一華やかなスター俳優なのに、抑えた演技で自分の魅力を殺し、陰気な主人公になりきっている。監督のパトリック・ヤウは、金城武とカルメン・リーが主演した『パラダイス』という映画がデビュー作で、今回の映画が2作目。前回の映画もよくわからない作品だったけど、僕は今回の映画にも異議がある。この映画の場合、主人公の刑事サムと謎の男トンを陰と陽の対照的な人物に設定し、最初はまったく異なって見える人物にする必要があると思う。まったく違うタイプの人間が、一夜で急速に接近し、最後は立場を入れ替える面白さが、この物語の要ではないのか。クライマックスの鏡を使った銃撃戦や、意表を突くラストシーンも、ふたりが最初から似ていたのでは面白さが半減してしまう。これは監督の演出プランに問題ありだ。

 オープニングは実録調で、音楽も含めてなんとなく『ゴッド・ファーザー』路線に行くのかと思っていたら、途中から話がいきなりマンガじみてくる。主人公が追いつめられて行く後半は、彼が用意周到な罠に落ちたと言うより、自主的に墓穴を掘って自分からそこに飛び込んだように見えてしまうのだが、このへんは演出の勢いでラストまで押し込んでしまった。演出でごり押しして無理を通してしまうのは、『パラダイス』にもみられたものなので、この監督は短いシークエンスの中で登場人物たちの感情を盛り上げるのが上手いのかもしれない。これで映画全体を見渡す構成力が身に付けば、いずれはそれなりに上手い監督になるかもしれない。

 絵的に印象に残る場面がないのが、この映画の弱さだろうか。『パラダイス』では主人公たちが過ごすニューイヤー・イブの描写が秀逸で、その場面を観ただけでとりあえず満足できるくらいだったんだけど……。

(原題:暗花/the longest nite)


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