アンツ

1998/10/13 UIP試写室
アリ王国で起きたクーデター騒ぎを1匹の働きアリがくい止める。
CGがすごい。声優がすごい。そして話も面白い。by K. Hattori


 ドリームワークスが作ったフルCGアニメ。アリの社会でサクセスする働きアリの冒険譚を、王女アリとの恋をからめて描きます。ディズニーの『トイ・ストーリー』の後ということもあり、「フルCG」と聞いても驚きは少ないが、この映画はちょっとすごい。何がすごいかと言うと、まずは参加している声優がすごい。主人公のZを演じているのがウディ・アレン。その恋人になるバーラ王女の声がシャロン・ストーン。悪役マンディブル将軍がジーン・ハックマン。その腹心カターがクリストファー・ウォーケン。女王蟻がアン・バンクロフト。Zの親友ヴィーバーがシルベスター・スタローン。他にもダニー・グローバー、ダン・エイクロイド、ジェニファー・ロペス、ポール・マザースキーなどが声だけで参加している。声優だけで比較すると、ディズニーアニメには決して負けていません。ディズニー風のミュージカルアニメではありませんが、歌が登場する場面がいくつかあります。そのほとんどは規制の曲の替え歌。選曲の当意即妙ぶりに、思わず笑ってしまう場面もあります。

 2番目にすごいのは、モブシーンでうごめく登場人物(全部アリですが)の数がハンパじゃないこと。とにかく、数え切れないぐらいたくさんのアリが登場します。もっとも多いシーンでは、ひとつの場面で6万匹のアリが登場しているシーンがあるそうです。しかもそれが、1匹ずつ違う芝居をする。(もちろんこれは資料を見て書いている。画面を見て数えたわけではありません。)つい先日『ムーラン』の騎馬シーンに驚いた僕ですが、この映画はそんなもんじゃない。こうした映画が作れるのも、CGあらばこそでしょう。マシントレスの登場で『101匹わんちゃん大行進』が製作可能になったように、CGの登場によって『アンツ』は製作可能になったのです。もちろん、最初にCGありきでこの企画を考えたのかもしれませんが、今まで作られたアニメで、この映画ほどCG向きの素材はありません。

 主人公のキャラクター・デザインは、アリよりETに似ていると思います。ドリームワークスはスピルバーグも経営に参加している会社なので、その影響が多少はあるのかも。スピルバーグがらみで言うと、この映画と『プライベート・ライアン』を並べて観るとすごく面白いと思う。『アンツ』で悪役にされているのは兵隊アリを率いる将軍で、彼は言葉巧みに美辞麗句を操り、戦争を起こし、兵士たちを戦場に送ります。ここで描かれているのは、外敵を無理矢理作り出してでも戦争を起こして点数稼ぎをする軍隊の姿。マンディブル将軍の演説は、アメリカ流の正義に対する痛烈な皮肉です。戦闘シーン自体は『スターシップ・トゥルーパーズ』からの影響が濃厚ですが、死屍累々たる戦場のありさまは、『プライベート・ライアン』にも通じるものがあります。

 物語もよくできているので、子供から大人までみんなが楽しめるはず。吹き替え版もあればいいのにね。

(原題:ANTZ)


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