疑惑の幻影

1998/09/30 日本ヘラルド映画試写室
メラニー・グリフィスが敏腕女弁護士を演じるミステリー映画。
脚本がこなれてなくて面白味は少ない。by K. Hattori


 メラニー・グリフィスが負け知らずの女弁護士に扮し、ラップ・ミュージシャンが巻き込まれた富豪令嬢殺人事件の真相を探って行く。グリフィスと言えば、かつては頭空っぽのアッパラ姉ちゃんを演じさせるとハリウッドでナンバーワンだった女優。彼女には『ワーキング・ガール』という代表作があるものの、他の役はどれもこれも、頭が軽くて尻も軽いオヤスイ女性の役ばかりだった。今回彼女が弁護士を演じると知って「おいおい、そのキャスティングには無理があるだろう」とも思ったのですが、実際に映画を観てみるとそうでもない。セクシー女優メラニー・グリフィスも、40歳を過ぎてさすがにピチピチした色気が抜け、貫禄が備わってきたらしい。今回の役柄は「姉ちゃん」というより「姉御」です。

 主人公と対決する検事補を演じているのは、兵隊を演じさせるとハリウッド・ナンバーワンのトム・ベレンジャー。こっちもあまり頭が良さそうには見えないのですが、物語の中できちんと「昔は成績で苦労したぜ」という思い出話が語られて、ベレンジャーのキャラにドンピシャリの役柄になっている。これが単なる付け焼き刃ではなく、物語の重要な伏線になるあたりはニクイ。この役をもう少し膨らませられると、この映画はもっと面白くなっただろう。せっかく主人公と元夫婦という設定があるのに、それがあまり生きていないのが残念。お金持ちの令嬢で苦労せずに弁護士になった主人公と、貧しい境遇から苦学して法曹界に入り、たたき上げで出世してきた男の対比にするとか、ベレンジャーの演じるジャックが、まだ主人公のキットに未練があるように見せるとか、方法はいくらでもあったと思うんだけど……。

 物語の中では、主人公キットが以前弁護した、アトキンスという男が重要な役で登場しますが、扱いが中途半端で面白味に欠けます。変態なら変態で構わないのですが、もっとクレーバーな男に見せてほしい。『セブン』のジョン・ドウや、『羊たちの沈黙』のレクター博士にも通じる役どころなのに、このアトキンスは頭が悪すぎます。こんなにバカな男のどこがよくて、キットは彼と寝てしまったんでしょう。やはりメラニー・グリフィスが演じているだけあって、キットはただの尻軽女なんでしょうか。アトキンスが頭悪そうなので、彼がしばしばキットに電話してアドバイスするシーンも、単なるストーキング行為にしか見えない。これはもったいないよ。

 テーマになっている政治家のセックス・スキャンダルにしても、今や現実の世界の方がはるかに先を行ってしまっているので、この映画に登場する不祥事など些末なことにも思えてしまう。現役の大統領が執務室で研修生にフェラチオさせていた様子が赤裸々に語られる世の中では、あまりにも刺激の少ない映画でした。ミステリー映画としてもサスペンス映画としても二流ですが、主演にふたりのスター俳優が名を連ねていることで、この映画の格はかろうじて少し上がっている。結局これは、娯楽映画としては中の中、まったく普通の映画です。

(原題:SHADOW OF DOUBT)


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