ルル・オン・ザ・ブリッジ

1998/09/21 日本ヘラルド映画試写室
再起不能のミュージシャンと女優志願の若い女の恋。
物語より俳優でみせる映画です。by K. Hattori


 『スモーク』『ブルー・イン・ザ・フェイス』の原作者・脚本家、後者では共同監督も務めたポール・オースターが、はじめて単独で脚本・監督した作品。ジャズ・ミュージシャンのイジーは、ライブハウスで演奏中に、客席からの銃撃を受けて瀕死の重傷を負う。片肺を摘出する大手術でかろうじて命は助かったものの、ミュージシャンとしての生命は断たれ、イジーは生きがいのすべてを失ってしまう。彼はある夜、道端で死んでいる男を見つけ、近くに転がっていた鞄を持ち帰ってしまう。中に入っていたのは、クレジットカードの利用控え、電話番号を記したメモ、それに、玉子ぐらいの大きさの石ころだけ。だがこの石は、真っ暗な部屋の中で不思議な青い光を放つのだった。これに驚いたイジーは、石の正体を探るため、メモに記された番号に電話してみる。電話に出たのは、レストランでアルバイトをしている売れない女優セリアだった……。

 不思議な石を仲立ちにして、人生に絶望した男と、夢を追いかけようとする女が出会い、恋に落ちる物語です。イジーを演じているのは、『スモーク』の主演俳優でもあったハーヴェイ・カイテル。彼がサックスを演奏するシーンは、『ニューヨーク・ニューヨーク』のデ・ニーロに張り合っているようでおかしい。もっとも今回の役は「演奏できなくなったミュージシャン」なので、特に演奏シーンに力は入っておらず、指づかいなどはカメラから隠してます。でもこれは正しい選択だったのだろうか。この演奏シーンにもっとリアリティがあれば、事故で演奏できなくなったイジーの喪失感が、もっとビビットに観客に伝わってきたと思う。

 イジーと出会う若い女優セリアを演じるのは、オスカー女優のミラ・ソルヴィーノ。イジーとセリアが恋に落ちる理由はまったく描かれていないのですが、ふたりの俳優の表情から、ちゃんと恋する気持が伝わってきます。面白かったのは、セリアが自分の出演映画のサンプルを、イジーに見せる場面。セリアは端役でしか映画に出たことがないという設定なので、役柄が全部チャチなのです。ビデオではそれぞれの場面が、いかにもそれ風に作られていて、思わず笑っちゃいます。

 イジーの元妻ハナの役で、『バウンド』のジーナ・ガーションが登場。相変わらずかっこいい。元美人女優で、今は映画監督をしているというキャサリン・ムーアを演じているのは、ベテランのヴァネッサ・レッドグレイヴ。彼女が「美人女優も年をとると醜くなる」みたいな台詞を言っても、本人はたぶん、自分のことをそうは思ってないんでしょうね。そのギャップが台詞のゆとりになってます。映画の後半になると、悪魔めいた謎の博士役でウィレム・デフォーが登場。彼がニコニコしながら「雨に唄えば」を歌って踊るシーンは、かなりヘン。

 映画の内容は、どうってことない話です。生活感たっぷりに描かれているニューヨークの場面に比べると、ダブリンのシーンがちょっと弱いかな。オチはよくある物。

(原題:LULU ON THE BRIDGE)


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