トゥルーマン・ショー

1998/08/19 UIP試写室
『ガタカ』と同じ脚本家が書いたグロテスクなファンタジー。
最後は間違いなく感動できます。by K. Hattori


 ジム・キャリー主演最新作だが、映画ファン的には、この映画の脚本を書いているのが『ガタカ』の監督兼脚本家アンドリュー・ニコルである点に注目してほしい。『ガタカ』に描かれた未来社会が「ユートピア」であると同時に「ディストピア」だったのと同じように、『トゥルーマン・ショー』の舞台も人間の手で完全にコントロールされた「ユートピア」であり「ディストピア」なのだ。『ガタカ』が好きだった人には絶対にオススメできる映画だし、『ガタカ』を観ていない人にもぜひ観てもらいたい映画です。最後は感動間違いなしです。

 『トゥルーマン・ショー』とは、ジム・キャリー扮する主人公トゥルーマン・バーバンクが主演するテレビ番組のタイトル。ただし主人公であるトゥルーマンには、自分が番組に出演しているという自覚がまったくない。彼は生まれたときから、巨大な映画セットのような町から一歩も外に出ることなく育ち、周囲を取り囲むプロの俳優やエキストラたちに囲まれて育ってきた。彼の周囲にある現実はすべて人工的に作り出されたものだが、彼自身は自分の人生を自力で生きている。生活の一部始終は、町中に取り付けられた約5,000個のカメラで詳細に撮影され、24時間体制でお茶の間に放送されているのだ。番組は世界中に中継され、トゥルーマンは世界全体が見守るスーパーアイドルになっている。だがこうした完璧な世界も、どこかにほころびが生じるものだ。

 自分の周囲がすべて偽物だというアイデアはフィリップ・K・ディックの小説にしばしば登場するものだし、映画『ゲーム』も完全にコントロールされた虚構の事件というテーマを扱っていたので、『トゥルーマン・ショー』が特別ユニークというわけではない。しかしこの映画では、番組を製作したプロデューサーのインタビュー、番組を見ている視聴者の反応、トゥルーマンの足跡を振り返る特別番組や回想シーン、視聴者とプロデューサーの質疑応答などのエピソードや、登場人物たちのファッション、番組中でのCM、思わぬアクシデントなどを少しずつ盛りこんで、完璧な世界が少しずつその正体を見せ始める様子をスリリングに描ききった。

 この映画のアイデアは「トゥルーマンの人権はどうなる!」と言い出した途端に、すべてが泡のように消えてしまうものです。しかしそれを上手くごまかしたのが、主人公を演じたジム・キャリーのキャラクター。彼の持つ独特の軽味が、生まれてこのかた1分たりともプライベートな時間を持たないトゥルーマンの悲惨さを隠し、この映画が持っている根本的な残酷さや非人間性を打ち消している。キャリーは『ライアーライアー』でも見せていた独自の芸風を今回は封印し、主人公の日常や不安や疑念を完璧に演じて見せる。彼のキャリアの上でも、重要なポジションを占める映画になることでしょう。

 脚本家がニュージーランド人、監督はオーストラリア人のピーター・ウィアー。アメリカ・マスコミの毒をスマートに描けたのは、彼らが外国人だからでしょうか。

(原題:The Truman Show)


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