従姉妹ベット

1998/08/06 20世紀フォックス試写室
自分をコケにした親戚たちに復讐する中年女の物語。
エリザベス・シューの舞台姿が素敵。by K. Hattori


 フランス革命の余波で揺れる19世紀半ばのパリを舞台にした、ジェシカ・ラング主演のコスチュームプレイ。文豪バルザックの大作「人間喜劇」の一部として書かれた「従姉妹ベット」を原作にしているものの、内容は現代的にだいぶアレンジされているらしい。そのせいか物語のテンポが非常にスピーディーで、1時間46分というハリウッド映画としては標準的な長さの作品であるにもかかわらず、内容は盛りだくさんで見せ場が満載。数年間に渡る物語を、あっという間に見せてしまう時間処理と、人物の心の動きや行動を巧みにさばく上手さに舌を巻きました。監督はこれが映画監督デビュー作となるデス・マカナフですが、彼は舞台演出家として長いキャリアを持つベテラン。脚本と製作総指揮をつとめたリン・シーファートは映画『クール・ランニング』の脚本も書いていますが、じつは彼も著名な劇作家だそうです。演劇関係の人が映画を作ると、映画の中にどうしても「舞台劇臭」が残るものですが、この映画にはそうした気配が皆無。丹念なロケーション撮影と入念に作りこまれたセットや衣装のおかげで、物語には時代劇特有の厚みを感じます。

 ベットという名の中年女性が、自分をコケにし、裏切った親戚たちに復讐する物語。彼女は若い頃にただ一度だけ愛した男を従姉妹に奪われ、従姉妹の死後、ようやく後妻に入れるかと期待したらメイド頭の仕事を押し付けられそうになり、同じアパートに住む若い芸術家を恋人にすれば、彼はベットを裏切って彼女の従姉妹の娘と結婚してしまう。長く忍従の生活を送ってきたベットも、ここに来ていよいよ堪忍袋の緒が切れた。彼女は自分が衣装係兼付き人をしている舞台の歌姫ジェニーを味方につけると、華麗で緻密な復讐を開始するのだった……。

 人間の長所と欠点は、1枚のカードの裏表です。主人公のベットは自らの控え目な性格があだとなって幸福の芽を次々摘み取られ、従兄弟のヘクターは美女に篭絡されて一家の財産を使い果たし、ベットを裏切った芸術家は自らの才能に奢り高ぶって自滅する。話だけ取り出すとひどく陰惨な復讐劇のようですが、映画の語り口はむしろコミカルなものです。僕は何度かクスクス笑ってしまいました。辛辣なトゲのある笑いです。

 ジェニーとベットが働く劇場の描写がじつに面白い。劇場のスター女優であり、高級娼婦としての顔も持っているジェニーを演じるのは、『リービング・ラスベガス』でアカデミー賞にノミネートされたエリザベス・シュー。『セイント』の女科学者より、彼女はこういう役の方が断然似合います。舞台の演目が変わるたび千変万化する彼女の衣装も見もの。舞台上の歌は吹き替えではなく、彼女自身が歌っているようです。

 革命後の混沌とした時代を描きながらも、映画の中の人たちは揺れる時代と無縁の世界で生きている。街の中はまるで戦争状態でも、劇場の中はいつも通り人々の拍手と歓声で満ち、ベットの周辺は淡々とした日常が続く。歴史劇としても、なかなか興味深い映画です。

(原題:Cousin Bette)


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