モンタナの風に抱かれて

1998/07/14 ブエナ・ビスタ試写室
事故で傷ついた馬と少女が、モンタナの牧場で癒されて行く。
レッドフォードのカウボーイ姿が格好いい! by K. Hattori


 日本でも新潮社から邦訳出版されている、ニコラス・エヴァンスのベストセラー小説「ホース・ウィスパラー」を、ロバート・レッドフォードが製作・監督・主演で映画化。原題は「馬にささやく者」といった意味で、心身ともに傷ついた馬を手厚くケアするトレーナーを指す言葉。この言葉は何世紀も前から使われているそうですが、その名に値する腕のいいトレーナーたちの多くは「ホース・ウィスパラー」と呼ばれることに難色を示すそうです。本当に馬を思いやる男達はもっと謙虚で、自らを「ホース・ウィスパラー」などとは呼ばないものだそうです。原作のモデルでもあり、映画にもテクニカル・アドバイザーとして参加したバック・ブラナマンも、『レッテルは他の皆さんにゆずるよ。僕には必要ない』ときっぱり言い切っています。

 乗馬中の事故で傷を負った馬と、事故で片足を失った少女が、トレーナーのいるモンタナの牧場で少しずつ心の傷を癒して行く物語です。映画には少女の母親とトレーナーの恋も描かれていますが、むしろ馬の訓練風景や、固く凍り付いてしまった心を少しずつ開いて行く少女の姿が感動を生みます。突然の事故で親友を失い、一生消えない身体の傷を負い、愛馬とも心が離れてしまったグレースが、少しずつ馬との関係を修復して行く様子がじつにいじらしい。グレースを演じているのは、『のら猫の日記』の妹役で好印象を残したスカーレット・ヨハンソン。『ホーム・アローン3』がイマイチだっただけに、今回のグレース役は嬉しいぞ。彼女が愛馬ピルグリムに再びまたがり、小さな柵の中をぐるぐる回る場面は、この映画の実質的なクライマックスでしょう。

 グレースの母親アニーを演じているのは、『イングリッシュ・ペイシェント』でヒロインを演じ、アカデミーにノミネートされた経験を持つクリスティン・スコット・トーマス。ニューヨークで雑誌の編集長をしていた彼女は、娘を救うために馬ともども遥かモンタナまでトレーラーを運転してきます。彼女はそこで、レッドフォード扮するベテラン・トレーナーのトム・ブッカーと恋に落ちる。でもこのエピソードは、完全に映画の脇に回っていて、決してメインの話ではないのです。不倫の切なさをメインに描いた『イングリッシュ・ペイシェント』に比べると、やけにあっさりしたもんだしね。

 たぶん監督のレッドフォードは、アニーとトムの恋愛話にあまり興味がなかったのでしょう。映画の中で印象に残るのは、美しいモンタナの牧場と、繰り返される馬のトレーニング風景。モンタナはレッドフォードの『リバー・ランズ・スルー・イット』の舞台でもある。彼のこの場所に対する愛着は本物のようです。傷ついた馬が少しずつ元の快活さを取り戻してゆく様子は、動物トレーナーの優れた仕事ぶりが光ります。ただし、脚本自体はアニーとトムに関してそれなりに書き込んでいるので、映画は「不倫の恋」と「美しい自然の中で癒される馬と少女」の話の間で分裂してます。

(原題:THE HORSE WHISPERER)


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