犬、走る
DOG RACE

1998/07/13 シネカノン試写室
『月はどっちに出ている』の崔陽一監督が歌舞伎町で撮った最新作。
これは同時期撮影の『不夜城』より面白いぞ。by K. Hattori


 『月はどっちに出ている』で在日コリアとフィリピーナの恋を描き、日本映画界に衝撃を与えた、監督・崔洋一と脚本・鄭義信コンビの最新作。今回は新宿歌舞伎町を舞台に、日本人の不良刑事、在日コリアの情報屋、同じく在日コリアのヤクザ組長、中国からの出稼ぎ美女の、奇妙な四角関係関係を描いて行く。脚本の原案は、丸山昇一が故松田優作のために用意していたオリジナル脚本だそうですが、鄭義信の脚本がそれを単純になぞったとはとても思えない。おそらく、基本的な人物配置やストーリーラインだけを借りて、独創的な脚色を施したのでしょう。歌舞伎町という地域性や、在日コリアの問題、出稼ぎ中国人たちの裏稼業など、たぶん丸山昇一の脚本には存在しなかったと思うし、主人公である刑事のキャラクターも、もっとヒロイックなものだったと思う。でないと、松田優作の活躍する余地がないもんね。

 物語の牽引車になるのは、ヤクザに情報を流してはワイロを受け取っている不良刑事・中山と、彼となぜかツルんでいる在日コリアの情報屋・秀吉。『月はどっちに出ている』『東京デラックス』などで、崔洋一作品のレギュラーになっている岸谷五朗が中山を演じ、北野武作品の常連で、最近は『アンラッキー・モンキー』での怪演ぶりも笑わせてくれた大杉漣が秀吉を演じています。寝る間もなく働き詰めに働く一方、ヤクザや中国人ギャングたちともつながっている中山という人物の無茶苦茶ぶりと、抜け目ない小悪党ぶりを発揮しながらも、中山の恋人である中国人美女・桃花に純な思いを寄せる秀吉の迷コンビぶりが、この映画の面白さだろう。

 特に中山の分裂した性格は、痛快というか、破天荒というか……。外国人のヤク売人から覚醒剤を買って自分に注射しちゃったり、ハイになってぼったくりバーに入り、店の客引きの女の子を犯しちゃったりする場面は最高でした。香川照之演ずる佐久間という相棒刑事も、途中から中山以上にぶっとんだ性格の片鱗をのぞかせ、思わず爆笑させられてしまった。はっきり言って、彼らは普通の刑事ドラマなら、「はみ出し」を越えて、明らかに「問題刑事」「犯罪刑事」「悪徳刑事」の部類に入ってしまう。でもこの映画では、そんな彼らがじつに愛敬たっぷりに描かれ、演じている岸谷五朗や香川照之の「根は真面目」なキャラクターもあって、本当に魅力的な人間に描かれている。もっとも、この場合の「魅力的」というのは、「こんな人がいたら、ぜひお友達になりたい」という意味ではなく、あくまでも「映画の中で輝いている」という意味ね。お間違いなく。

 対する大杉漣も、屋根から屋根に飛び移る大スタントや、SMクラブでの女装姿など、今回は見どころがたっぷり。今までにない、新しい大杉漣の魅力が出ていたと思う。中国美女・桃花役の冨樫真も、映画初出演ながら大胆な脱ぎっぷりで大熱演。在日コリアのヤクザ組長を演じた遠藤憲一も迫力満点でした。映画としては少しバタバタしたところもありますが、こいつは大満足。


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