クライムタイム

1998/07/09 ユニジャパン試写室
『ブラス!』のピート・ポスルスウェイトが連続殺人鬼に変身。
共演はスティーブン・ボールドウィン。by K. Hattori


 『ブラス!』で頑固一徹オヤジを好演していたピート・ポスルスウェイトが、連続殺人犯を演じる異色サスペンス映画。最近は「連続殺人=サイコサスペンス」と簡単にまとめてしまう風潮がありますが、この映画にはあまり「サイコ」な匂いがしない。「サイコ」という言葉には、猟奇犯罪を繰り返す殺人犯を我々の属している常識や良識という規範の外側に置き、「どうせ気狂いなんだから、何をするか知れたもんじゃない」と突き放してしまう割り切りがある。犯罪者とそれ以外の人間には大きな隔たりがあって、それを乗り越えることは永久にできないという前提があって、はじめて「サイコ」なる言葉が登場するのです。ところが、この『クライムタイム』に登場する犯人の、何と人間臭いことか。やっていることは確かに冷酷無残な猟奇殺人ですが、その心理は我々自身や我々の隣人に限りなく近い。

 タイトルの『クライムタイム』というのは、日本で言えば「密着!警視庁24時間」みたいな報道系娯楽番組。犯罪の現場からのレポートと、犯罪現場で俳優たちが演じる再現ドラマが売りの番組です。番組を見た視聴者からの情報提供を捜査に役立てるという大義名分はありますが、実際は扇情的なニュースで視聴者の覗き見趣味を刺激するのが目的。事件を忠実に再現することより、視聴者の期待を裏切らない「残酷な事件」「気の毒な被害者」「血も涙もない犯罪者」を作り上げてしまう、視聴率重視のバラエティー番組です。

 あるOL刺殺事件を再現した回に犯人役として抜擢されたボビーは、番組の要求水準を越えた入魂の演技で、お茶の間にセンセーションを巻き起こす。番組のスタッフは大喜びし、犯人が逮捕されないまま、再び犯罪を起こすことを願うようになる。この番組を、なんと犯人も偶然見ていた。彼は番組の期待に応えて犯罪を繰り返し、主演のボビーには、電話で演技のアドバイスまでする。犯人シドニーにとっては、それが辛い生活から逃避する、唯一の手段だったのです。番組の中で悪のヒーローとして魅力たっぷりに脚色された自分の姿を見るたびに、シドニーの心はときめいてきます……。

 この映画から、現代のマスメディアに対する批判を読み取ることは可能でしょう。でも、それはいかにもつまらない映画解釈だと思う。むしろ犯人シドニーが、年甲斐もなくテレビ番組に夢中になってしまう部分が面白い。この面白さに比べると、テレビ番組のプロデューサーであるカレン・ブラックの登場シーンに安っぽいマーチ風のテーマ曲がかぶさることや、スティーブン・ボールドウィン扮するボビーの役作りへの傾倒ぶりは二の次になってしまう。むしろ評価すべきは、犯人の生活実感をすべて体現したジェラルディン・チャップリンの存在感あふれる演技かもしれません。

 監督は『失踪』『マイセン幻想』のジョルジュ・シュルイツァー。オープニングの長回しが結構印象に残ります。『不夜城』より効果的なワンカット撮影でした。

(原題:CRIMETIME)


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